タル・ベーラ監督が来日「ヴェルクマイスター・ハーモニー」4Kレストア版公開に際し自作を語る

2024年2月28日 10:00


タル・ベーラ監督
タル・ベーラ監督

ニーチェの馬」(2011)を最後に映画監督から引退したハンガリーの鬼才タル・ベーラが、7時間18分の超大作「サタンタンゴ」(94)に続いて撮りあげた長編作品「ヴェルクマイスター・ハーモニー」(00)4Kレストア版の日本劇場公開がスタートした。

クラスナホルカイ・ラースローの小説「抵抗の憂鬱」をモノクロ映像で映画化したドラマ。ハンガリーの荒涼とした田舎町を舞台に、移動サーカスと見世物の巨大クジラが訪れたことを機に、町に充満していた不穏な歪みが爆発するさまを描く。

「これは、永遠の衝突について―本能的な未開と文明化を巡る数百年の争い―全東欧のこの2世紀を決定付けた歴史的経緯に関する作品」であると、本作発表当時にコメントしているタル・ベーラ監督が、福島での映画制作ワークショップ参加のために来日。「ヴェルクマイスター・ハーモニー」について話を聞いた。

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――本作も含め、フィルム撮影がタル・ベーラ監督作品の特徴です。デジタルとフィルムについて、そして自作のデジタル修復についての考えを聞かせてください。

フィルムとデジタルは違う言語だと捉えており、長きに渡って自分の作品のデジタル化に抗っていました。しかし『ヴェルクマイスター・ハーモニー』は25年、『サタンタンゴ』30年、そして初期作に至っては46年ぐらい経っているも作品もあります。時代は変わり、映画館ではフィルム上映ができなくなってきています。そういう状況で、デジタル版での修復を考えた時に、真剣に向き合えば、セルロイドとほぼ同じクオリティが達成することはできると思いました。とはいえ、若い世代にはデジタルをまた違ったやり方で捉え、違う言語を見つけてほしいと願っています。

今、誰もがデジタル撮影できますが、それはフィルムカメラのフェイク、代用品のような形で使っているように思えるのです。私が待ち望んでいるのは、デジタルであるからこその映画言語、そういった作品とそれを生み出す作家が出てくるのを待っているところです。

サタンタンゴ」のデジタル修復時に、雨のシーンがフィルムの傷だと思われて全部消されてしまったことがあります。そういった経緯もあり、今回はすべて自分で監修しています。アメリカでレストアが行われていますが、ファイナルの作業は、自分がブダペストでやりました。

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――「サタンタンゴ」の次の長編作です。こちらも「サタンタンゴ」同様ラースローの小説が原作ですが、映画化の経緯を教えてください。

奇妙な話です。たしか出版前の新作という状態でラースローから手渡され、素晴らしい作品でとても気に入りましたが、映像化は無理だと話していました。それは、主人公のヤーノシュを演じられる人間を全く想像できなかったからです。しかし、何年か経ってからベルリンで若いフィルムメーカー向けのワークショップをしている時に、他監督がキャスティングをやっていて、その時にラース・ルドルフに出会ったのです。

彼が部屋の角の方に座って待っているの見て、なにか感じるものがあって、話しかけました。その日の夕方にラースローに、「ヤーノシュが見つかったから映画にできる」と電話で伝えました。ですから、この映画を作った理由というのはラース・ルドルフとの出会いだったのです。その時の彼のキャリアは、ストリートミュージシャンでトランペットを吹いていて、CDを1枚だけ出していると言っていました。

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――主役のヤーノシュを演じたラース・ルドルフにはどのような演出を行ったのでしょうか? あなたのこれまでの作品には、演技経験の少ない人も登場しています。

ヴェルクマイスター・ハーモニー」には大女優のハンナ・シグラも出演していますが、プロも素人も全く同等に接します。私の映画に大事なのは演技力ではなく、パーソナリティです。彼らのパーソナリティを捉えるのが私のゴールですから、一人の人間として、同じようにその触れ合うのです。

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――本作は長回しでわずか37カットで撮られています。今作、また他の作品でもロングショットを多用するその意図について教えてください。

我々の人生というものは、時空、時とその空間の中で起きています。しかし、多くの映画はそのことを無視している。割と単純なストーリーテリングしかしていなかったり、しかも系列的に一直線に描かれています。私にとって、そういったストーリーテリングは醜く感じ、個人的に興味を持てないのです。

特にこの映画のように、人生というものの全体を描きたいのであれば、時空を含めなければいけない。そうすると長回しが必要になります。そのことによって、その人の人生の中により踏み込むことができるし、そのキャラクターのパーソナリティを発見することができる。それが私が映画でやりたいことなのです。

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