【インタビュー】リリー・フランキー&木村多江が語り合う、“あの時”から今

2024年2月23日 09:00


取材に応じたリリー・フランキーと木村多江
取材に応じたリリー・フランキーと木村多江

リリー・フランキー木村多江が日英合作映画「コットンテール」(パトリック・ディキンソン監督、3月1日公開)で夫婦役を演じた。90年代の事件、裁判とともに法廷画家の夫と妻の10年間の歩みをつづった「ぐるりのこと。」(橋口亮輔監督、2008)以来となる。2人が“あの時”から今を語り合った。(取材・文/平辻哲也)

■「ぐるりのこと。」から地続きの物語を見ているような感覚

コットンテール」は家族を顧みなかった60代の作家・兼三郎(リリー)が、闘病の末に亡くなった亡き妻・明子(木村)の思いを叶えるため、息子夫婦(錦戸亮高梨臨)と4歳の孫とともにイギリス湖水地方を旅するヒューマンドラマ。日本での留学経験のある新鋭パトリック・ディキンソン監督が母を失った自身の経験をもとに、オリジナル脚本を書きあげた。

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リリーと木村は16年ぶりの夫婦役だが、この間も橋口監督を交え、食事をしたり、2人で橋口監督のワークショップを見学するなど親交が続いていたという。

――「コットンテール」は、妻の遺灰をまくために主人公が旅する物語ですが、「ぐるりのこと。」から地続きの物語を見ているような不思議な感覚がありました。

リリー「『ぐるりのこと。』の残像は多分、ずっとありますよね。日本人の監督だったら、ちょっとキャスティングしにくい二人だと思うんです。昔は心を病んでいる妻をいたわる夫でしたが、今は、若年性アルツハイマーになった妻を面倒見る。前にやった役がこういうふうに生きることがあるんだな、と思いました」

木村「長年、夫婦で生きている感じがすぐに出せてしまう。一緒にいても、違和感がなかったし、映像でも夫婦に見える。そういう空気になったんだろうなと思います」

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――「ぐるりのこと。」はお二人のキャリアにとって大きな作品だと思います。今振り返っていかがですか。

リリー「その後の生活は変わりました」

木村「リリーさんは売れっ子になられましたね」

リリー「(『ぐるりのこと。』で)良かったのはクランクインの前に1週間めちゃくちゃリハーサルしたこと。台本のリハーサルじゃなくて、その役の記憶をつけていく。感覚的にやっていいこと、良くないことを覚えたというか、技術的なことではなく、役の取り組み方を見せてもらったっていう気はしました。こんな経験は、あの映画でしかないです」

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木村「私は、それまで自信がなくて、自分のいろんなことをさらけ出すのがとても嫌だったんですよね。鎧を着てお芝居するというか、怒っているなら、怒っている風を一生懸命頑張るとか、そういう感じ。一番本当に見せたくない汚い部分とか辛い部分は出さないようにしていました。この役をお引き受けする段階で、そういう蓋(ふた)を開けなければいけないという覚悟を持って望みました。実際にやってみると、『役者の本来はここなんだ』と分かりました。それまで10 年ぐらい役者をやっていたんだけれども、やっと役者のスタート地点に立てた気がします。ほかの現場では、こういうリハーサルはないのですが、自分でリハーサルする状況を作って、役に臨むことができました」

■「あのシーンで感じた集中力は忘れられません」(リリー)

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――物語の終盤、嵐の夜、木村さんが「私、子どもをダメにした」と感情をむき出しにして泣きじゃくり、リリーさんが鼻水を拭いて、鼻の頭をペロリと舐めるシーンは名場面でした。

木村「設定だけ与えられて 2人でエチュードしたんですよね。その時に私が言った言葉を、監督が書いて、それをセリフにしています。だから、私の中に本当にある言葉になっていますが、全部台本通りで一つもアドリブがない。しかも、10 分ぐらいワンカットで一発で撮っています。冒頭の長いワンカットとここは不安がなく、一番自信のあるシーンになりました」

リリー「あのシーンで感じた集中力は忘れられません」

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■「ずっと活躍しているリリーさんに嫉妬しています(笑)」(木村)

――お二人は「ぐるりのこと。」では第51回ブルーリボン賞で主演女優賞(木村)、新人賞(リリー)、第32回日本アカデミー賞では最終優秀主演女優賞などを受賞されています。受賞後の変化はいかがですか。

リリー「今回のインタビューでも一番言われるのは、『お芝居をする位置づけとは何なんですか?』。僕が初めて映画出てからもう 25 年ぐらい経っていますけど、延々に言われるっていうのはやっぱりずっとそのふわっとした感じで出ている風に思われているのが一番いいんだろうなって(笑)。決してプロっぽくなってはいけないというか、人が少々違和感を抱くぐらいがちょうどいいんだな。僕は、自分を役者だと思っていないんですが、それは絵描きも小説家もそうです。小学生の頃から、職業に対する憧れを抱いたことがなくて、なにか物を作る仕事したいという漠然とした感じがあります」

木村「(リリーは)執着がないことがいい結果を生んだんだと今、思いました。私は、どっちかというと、賞はいらない、目立ちたくない、静かに芝居だけをやってたいと思ったんだけど、急に(映画賞受賞者という)肩書きがついてしまって、それに見合った役者にならなきゃやらなきゃと、すごく焦って役者に執着してしまいました。それで、余計に執着してないで、ずっと活躍しているリリーさんに嫉妬しています(笑)。私は、どうしたら、もっと自由に芝居ができたらどんなにいいんだろうと思っています」

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リリー「日本アカデミー賞のプレゼンターは樹木希林さんだったよね。希林さんからトロフィーを受け取る姿を見て、誇らしい気持ちでした」

木村「今は、過去のことを言われるのが恥ずかしい。その後、全然、映画ができていない。賞をいただきたいという意味ではなくて、そういうところに行けるぐらいの役者にならなきゃいけないと思っています」

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――ディキンソン監督も、リハーサルを大事にされたそうですが、『ぐるりのこと。』と通じる点、違いはいかがですか?

木村「橋口さんは、10年付き合っている夫婦になるために、思い出を作るという感じでした。パトリックの場合は、そのシーンのリハーサルを何度もしました。普通に芝居をしたり、泣いてみたり、その中で監督のバックグラウンドであるお母さんの話をしたりしながら、作品を掘り下げていきました。橋口さんの場合は、私の感情がマックスにいくまで、20回くらいリハーサルをしたこともありました。パトリックも、私が死ぬシーンでは10回以上撮り直しをしましたね」

リリー「あれは、死に至るプロセスをいろいろ方法論で撮りたかったんだろうね」

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――「コットンテール」での夫婦役の“再会”は、どんな経験になりましたか?

木村「あの夫婦がまだ続いているような感覚はうれしかったですが、一緒にイギリスに行けなかったのは寂しいなって(笑)」

リリー「僕は、その時(『ぐるりのこと。』)の記憶があるから、ずっと骨を持って歩けた。自然と、長年一緒にいた人の骨を持っていると思えました」

木村「確かに、散骨する人の気持ちを推し量るのは難しいですね。明子が思いを託して、リリーさん演じる兼三郎が行動するのは、自然だなと思えました。この作品は、この二人だったからできたんじゃないか、と思います」

リリー「この映画は、家族を失った悲しみを乗り越えていく物語ですが、世界中の人々が同じような問題に直面しているんだなと思いましたし、最後には、小さな希望が描かれています。そこが世界の人に感じてもらえたらいいですね」

2人は、いつかあるだろう3度目の夫婦役共演も楽しみにしている。

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