【「燃えあがる女性記者たち」評論】差別や保守的な社会に抗い、社会を変えようとする女性たちの決意と熱意に学ぶ

2023年9月17日 13:30


「燃えあがる女性記者たち」
「燃えあがる女性記者たち」

先の無人探査機の月面着陸成功など、様々なニュースで世界での存在感を年々大きくしていくインド。この映画で紹介される「カバル・ラハリヤ」は、ダリト(不可触民)と呼ばれるカースト最下層の女性たちによって運営されているニュースメディアだ。

この映画の中心人物である、30代の主任ミーラは14歳で結婚、日本でいうところの高校に通いながら出産、勉強を続け修士号を取り、その後も教育学を学ぶ。家庭では2児の子育てと家事を担い、それでも「仕事がしたかった」というキャリア志向の女性だ。志高く、人望篤くリーダーシップのある彼女は、「ロケットを飛ばすくらいインドは発展したが、(差別問題については)遅れている」とため息を漏らす。

その言葉の通り、高い科学技術力を誇るインドは政教分離を原則としているものの、カーストはヒンドゥー教における身分制度であり、現在強いリーダーシップを執るモディ首相はヒンドゥー至上主義を掲げている。今作ではそんなインドの宗教と政治の過度な結びつきも指摘する。

ミーラの夫が人が好さそうなことが何よりだが、家父長制の強いインド社会では、まだまだ女性の地位は低く、結婚相手も自由に選べない。仕事で夜遅く帰宅すると、近所の男たちに「何をしているかわからない」と噂されることなど、全くひどいものだ。ミーラの優秀な部下で独身のスニータも、家族のための結婚に迷い、顔を曇らせる。このようにカーストによる差別、女性であることでの二重の困難を抱えながらも「カバル・ラハリヤ」の女性記者たちは、トイレすら設置できない貧困地域、レイプ、違法労働、警察の怠慢など過酷な問題に切り込み、社会を良くするべく、スマホを武器に戦っている。

取材方法も、対象者にアポを取り、実際に話を聞き、撮影の許可をとって文章や動画で伝えるという、シンプルかつ王道のやり方だ。有力者にすり寄ることもなく、慣習的に出された軽食も口にせず、彼女たちは毅然として取材に臨む。保守的で抑圧された環境で生きることを余儀なくされているからこそ、現状を変えるべく、自分の職業に誇りを持って取り組む姿を見ると、背筋が伸びる思いだ。はるかに自由な環境にある日本の我々の方が、彼女たちの決意と熱意から学ぶことは多いだろう。

「カバル・ラハリヤ」社のあるウッタル・プラデーシュ州は、ネパールにもほど近い内陸部に位置する。初めての海外出張でスリランカを訪れたスニータは、普段着用している伝統衣装ではなく、カジュアルな洋服姿で海辺で自撮りする。つかの間ではあるが、自国での様々なしがらみや重荷から解き放たれたような、等身大の若者らしいビーチでの笑顔が見られたことにも心を動かされた。「カバル・ラハリヤ」の更なる発展と、女性記者たちの活躍、カースト差別のないインドの未来を望まずにはいられない。

(松村果奈)

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