アルノー・デプレシャンインタビュー、衝突する姉弟描く「私の大嫌いな弟へ」脚本執筆時「『ラヴ・ストリームス』を3回見た」

2023年9月15日 16:00


来日中のアルノー・デプレシャン監督
来日中のアルノー・デプレシャン監督

フランスの名匠アルノー・デプレシャンの最新作で、マリオン・コティヤールメルビル・プポーが共演した「私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター」が公開された。デプレシャン監督の独占インタビューを映画.comが入手した。

第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門出品作で、ある時から憎み合うようにってしまった姉と弟の物語。姉アリスは有名な舞台女優で、弟ルイは詩人。アリスは演出家の夫との間にひとり息子がいて、ルイは人里離れた山中で妻と暮らしている。何が理由だったかはもはや分からないが、ふたりはずっと憎みあい、顔も合わせていない。そんなふたりが、両親の事故で再会する――。

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――新作の主人公は、仲が悪いというか、驚くほどに憎み合っている姉アリスと弟ルイです。でも何が原因で憎み合っているのかは、映画のあちこちに手がかりはあるけれど、はっきりとはわかりませんね。

(弟のルイと結婚する女性)フォニアがレストランでルイに、彼女を憎んでいる理由を尋ねるシーンがあります。ルイは「答えづらいな」と言います。なぜ人は人を憎むのか。満足のいく答えなんて存在しないからです。姉のアリスは憎しみに囚われている。父親は彼女に「お前は憎しみに囚われている、そこから抜け出さなくてはいけない」と言う。アリスはどうして自分がこんなに強い憎しみを抱いているのか、分からなくなっているのです。もちろん、映画は観客にそのヒントを与えてはいますが。

――2008年の「クリスマス・ストーリー」に続いて、姉が弟を憎む話ですね。

クリスマス・ストーリー」では、姉役のアンヌ・コンシニは弟役のマチュー・アマルリックへの怒りを持ったままで終わっていました。僕は、彼女を一人、監獄に入れたままで終わらせてしまったと感じていたのです。だから、今回は姉のアリスを解放する映画を作ろうと思ったんです。アリスを憎しみから解放するために、彼女を自由にするために。

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――衝突する姉と弟ということでジョン・カサベテス監督の「ラヴ・ストリームス」を思い出し、女優であるアリスと彼女のファンの若い女性のエピソードでは同じくカサベテス監督の「オープニング・ナイト」を思い出しました。これは偶然でしょうか?

実は、僕と共同脚本のジュリー・ペールは、脚本を書いている時に「ラヴ・ストリームス」を3回見ました。好きな映画というのは、その時々で変わるものだけど、「ラヴ・ストリームス」は今カサベテスの映画の中で一番好きな映画ですね。アリスと、彼女のファンであるルチアの関係は、確かに「オープニング・ナイト」をイメージしていました。「オープニング・ナイト」ではジョーナ・ローランズ演じる女優に向かって“アイ・ラブ・ユー”を繰り返す少女。カサベテスの映画では少女はその後車に轢かれて死んでしまうけど、僕は今回、少女の命を救たかった。ルチアには生きて、アリスの友人になって欲しいと思ったんです。

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――アリスを解放するための映画とのことですが、そこには「クリスマス・ストーリー」からの変化があったということですね?

僕が歳を重ねたということでしょうね。憎しみは時間の無駄だと深く思う年齢に、僕もなったんです。憎しみとは止めるべきものであると明らかにするような映画的方法を、絶対に見つけたい。どうすればこのネガティブな感情を取り除くことができるのか。そういう意味で、この映画は憎しみと戦うための装置だとも言えますね。憎しみを理解する一つの方法は、その感情が、「愛」という(口にすることが躊躇われますが)ものの、不幸な一側面に過ぎないと理解することだと思います。

――日本人的な視点なのかもしれませんが、この映画でのアリスとルイの憎しみ合いの激しさに驚かされる人も多いと思います。

確かにルイはとても野蛮ですし、アリスも同じく野蛮です。例えば、レストランで弟に遭遇したとき、彼女は椅子を放り投げます。そのシーンを撮るとき、僕は(アリス役の)マリオンにこう言いました。彼女は今、9歳の小さな女の子のようなもので、怒り狂っていてどうしていいかわからないんだと。一方、ルイは一人息子を失うという、癒やしがたい喪失を経験しました。アリスの息子に会った時、目の前に生きている甥がいることで、ルイは発狂し、甥に野蛮な振る舞いをしてしまう。それでも僕は彼らをジャッジする映画が撮りたかった訳ではないんです。彼らを否定するのではなく、彼らに寄り添いたいと思いました。僕はいつも大人の中に不器用な子供、罰を受けることを恐れている子供の姿を見てしまう。僕たちは大人のふりをしながらも、まだまだ不器用な子供だなと思うんです。

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――憎しみという感情が爆発しながらも、この映画には、ある意味で滑稽な要素やファンタジックな要素もあるように思えました。

不思議なことですが、悲劇的になるほどに人生は滑稽なものでもあることに注目せざるを得ません。階段から落ちる時は痛いのですけれども、笑ってしまいますよね。そのように可笑しいこととドラマチックなことが混ざりあっているのが映画であって、僕にはそれを止めることはできません。

――マリオン・コティヤールメルビル・プポーとキャスティングした理由は?

脚本を書き上げたとき、ルイ役はメルビル・プポーで決まりだという確信がありました。彼は本当にいい年の取り方をしていますよね。顔合わせのとき、彼はジャック・ニコルソンの「ファイブ・イージー・ピーセス」の話をしました。これで意気投合しないわけがないでしょう?マリオンは……僕はアリスのためにこの映画を作りました。彼女を解放するために。マリオンだったら、僕と一緒にアリスを解放してくれるだろうと思ったんです。うまく説明できないけれど、マリオンという存在にはどこか疑いない説得力のようなものがある。僕は彼女のことが無条件で大好きなんですよ。

――今回は8年ぶりの劇場公開作となる今作とともに、レトロスペクティブも開催されてファンにとっては最高の季節ですね。

日本は僕にとってとても特別なんです。僕は日本映画が大好きだし、日本の観客が映画のすみずみまで味わってくれることも知っているし、そしてたくさんの友人がいます。その中の一人である青山真治監督が亡くなってしまったのは悲しいけれど、また日本に行くことができて、しかも新作と旧作が同時に上映されるなんて、とても興奮していますよ。

アルノー・デプレシャン監督レトロスペクティブ
デビュー作となる「二十歳の死」から近作までの全長編13本を上映
・第45回ぴあフィルムフェスティバル 会場:国立映画アーカイブ(~9/22まで)
https://pff.jp/45th/lineup/arnaud-desplechin.html
・第5回映画批評月間 スペシャルエディション アルノー・デプレシャンとともに
会場:東京日仏学院 エスパス・イマージュ(~9/29まで)
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema20230908/

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