「テトリス」制作過程と版権争いの秘話 ヘンク・ロジャース&アレクセイ・パジトノフらが語る

2023年4月6日 14:00


「テトリス」Apple TV+で配信中
「テトリス」Apple TV+で配信中

映画「ソニック・ザ・ムービー」「アンチャーテッド」、ドラマ「THE LAST OF US」などビデオゲームを映像化した作品が、近年話題を呼んでいる。その流れにはハリウッドも注目しているようで、今後も「グランツーリスモ」「Ghost of Tsushima」の映画化が控えている。

そして上記のタイトル以上に、かつて世界中で空前絶後の人気を博したゲームがあった。それが「テトリス」だ。現在Apple TV+では、旧ソ連で生まれた同ゲームの制作過程と版権争いを描いた映画「テトリス」が配信されている。

本記事では、ゲーム“テトリス”を生み出したクリエイターのアレクセイ・パジトノフ、版権争いに関わったアメリカのゲームデザイナーで事業家のヘンク・ロジャース、映画「テトリス」主演のタロン・エガートンジョン・S・ベアード監督のインタビューをお届けする(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)。


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米ソ冷戦のただ中にあった1988年。アメリカのビデオゲームセールスマン、ヘンク・ロジャース(エガートン)はソビエト連邦のコンピュータ科学者アレクセイ・パジトノフ(ニキータ・エフレーモフ)が考案した「テトリス」の存在を知る。そのゲームを世界に発信しようと考えたヘンクは、危険を冒してソ連へと渡り、アレクセイに会う。2人はテトリスを大衆に広めるため奔走することになるが、そんな彼らの前には冷戦の東西陣営を隔てる鉄のカーテン、そして張り巡らされた嘘や腐敗した世界が立ちはだかる。

本作は、“テトリス”が任天堂「ゲームボーイ」(1989年発売)のソフトのひとつとして大成功を収めるまでを描いた実録ドラマ。ロジャースは、ハワイの大学でのコンピューター・サイエンス&RRG型ゲームの勉強を経て、83年に日本・横浜で株式会社ビーピーエス(Bullet-Proof Software)を創設。日本初のファンタジーコンピューターRPGとなった「ザ・ブラックオニキス」を発売した人物だ。

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映画内では、何の書類も持たずに“鉄のカーテン”の向こう側に行くことになる。その行為は、まさに狂気の沙汰。これは実際の出来事だったのだろうか。

ロジャース「そう、まさに映画の通りなんだ。私は当時(1989年)のソ連に行くことを決意し、ソ連大使館でビザを取得した。当時は誰に会うのかさえわからなかった。2、3日すると、役人たちがそれほど有能ではないことが理解できた。どこかの収容所行きになるのか。ソ連国内にさえ入れるかどうかもわからなかったくらい。ソ連の文字は何が書いてあるのかわからなかった。でも、私自身はこの旅をアドベンチャーゲームとして見ていたので、とても楽しかったんだ。そんな風に、当時を振り返っているよ。ただ、どこかで道を間違えていたら“溶岩の穴”に落ちていたかもしれない(笑)」

“主人公ヘンク・ロジャース”を演じたエガートンは、パジトノフとロジャースとどのように関わり合っただろう。

エガートン「今作を撮影したのは2020年の終わり。まだ新型コロナ感染者が非常に多かった時期だった。だからヘンクとの交流は、Zoomで何度か話しただけだった。アレクセイも1年ほど前に再撮影をしたときに、ようやく会えたんだ。彼らの最も興味深い点は、正反対という表現が正しいのかどうかはわからないが、全く違う世界から来た“異なるイデオロギーの持ち主”であることだ。本来はとても子どもっぽいものであるにもかかわらず、そのようなものが結びついて、とても強い友情を育んだところが魅力的なんだ」

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一方、ロジャースは本作との関わりについて「我々(=ヘンク&アレクセイ)はちゃんと脚本を確認した。私たちは一緒に座り、何時間も何時間も脚本を読み返していた。KGBの描き方、当時の部屋の様子など、リアルにできるところはすべてやったつもりだ」と当時の“忠実な再現”に協力を惜しまなかった。

パジトノフには、ロジャースとの最初の出会いについて振り返ってもらった。

パジトノフ「新しいビジネスマンが来たと知ったとき、私は本当に退屈していた。なぜなら当時『テトリス』を求めてソ連に来た冒険者は、ヘンクが初めてではなかったからだ。しかしヘンクがゲームデザイナーでもあることがわかると、私の心の全てが変わった。なぜなら、彼こそが私の人生においての最初の同僚になったからだ。当時のソ連にはゲームデザイナーというものは存在していなかった」

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ベアード監督によれば、ロジャースとパジトノフの最初の出会いのシーンは、ファイナル・カットで削除しなければならなかったという。

ベアード監督「実は、ヘンクとアレクセイがモスクワのチェス連盟で会うシーンがあった。そのシーンは、僕らにとっては見事に短く描かれていた。それは1980年代の冷戦、東西の対立、でもお互いを知らない者同士の必死のチェスゲームのようなもの。そのような形で2人を出会わせたんだ。でも、映画のスピードが落ちるように感じて最終的にカットしている」

ゲーム“テトリス”を製作してから実際に販売するまで、実際にはゲームの内容をどれほど変えたのだろうか。

ロジャース「(パジトノフが手がけた)元のテトリスのゲームは、単なるエンドレスゲームのようなもの。ブロックのスピードが徐々に速くなるものだった(なお、バジトノフが最初に作成していたのは80年代。コンピュータがそれほど発達していなかったため、ブロックの記号がなかった。そのため、カッコの記号[英語:parentheses]を利用して、ブロックのようにみせていた)。あの当時のゲーム~『スペース・インベイダー』『パックマン』などには既にレベルという概念が存在していた。当時の僕は日本でゲームパブリッシャー(ゲームタイトルを企画し、宣伝広報や販売、リリースを中心に行っている企業)を経営し、そのときに考えたのは『人は何かをするときに、自分がどれだけ得点を稼いでいるのか、どうやって知るのだろう』ということだった。そこで各レベルごとに『シングルが何個』『ダブルが何個』『トリプルが何個』『テトリス(=4つのラインをクリアすること)が何個』というように、1回でわかるようにしたかった。そこで『シングル・ダブル・トリプル・テトリス』(野球のようにシングル・ダブル・トリプル・ホームラン)というコンセプトを思いついた“テトリス”は、一度に4つのラインをクリアするのが最大の特徴だよね。当時、私自身もゲームデザイナーで“テトリス”にはかなり携わったし、そのデザインには多少なりとも貢献できたと思っている」

一方、オリジナルの“テトリス”を生み出したパジトノフは「私はコンピューターのためにゲームをデザインし、コンピューターだけを念頭に置いていた。私は、それまでの人生において、ビデオプラットフォームやハンドヘルドデバイスを見たことがなかった。だから“テトリス”の原型は、コンピューターのプラットフォーム専用に設計されたものだ。ビデオプラットフォームは調整が必要だったが、ヘンクの提案はそのプラットフォームに非常に適していた」とロジャースを評価。パジトノフのアイデアだけでは、大ヒットゲームは生まれていなかったのかもしれない。

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エガートンは、ロジャースの人生について重要な意味を成す元妻アケミ・ロジャース(劇中で演じているのは、日本の女優・文音)について語ってくれた。

エガートン「2人は若い頃に出会い、恋に落ち、世界中のいくつかの場所に住んでいた。彼らはアメリカで出会ってから、その後、日本に移ったんだ。彼らはビーピーエスを通じて、非常に濃密な関係、緊密な仕事上の関係、恋愛関係、そして家庭を築いていたと思う。そして、ある時期が過ぎると、それは終わりを告げたと思う。だけど、彼らのことは僕は代弁できない」

劇中で使用されているのは、1980年代の光景を蘇らせてくれるバンド・ヨーロッパの楽曲「ファイナル・カウントダウン」と「ヒーロー」。この選曲にこだわりがあったようだ。

ベアード監督「『ファイナル・カウントダウン』はベルリンの壁ができる前に、東ドイツのラジオで流された最後の曲だったんだ。だから、歴史のこの時点に具体的に言及している。文化的に大規模なもので、東西の関係が変化するきっかけになった曲とも言えるだろう。一方『ヒーロー』は、ポストプロダクションのかなり遅い時期に決まった。まずは、ボニー・テイラーが歌っているオリジナルの楽曲、そして(麻倉未稀が歌っている)日本版、ロシア版(ロシアの歌詞で書かれたもの)も使っている。これは、文化的な関連性を少し高めるための方法だった」

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最後に「今作を通して観客に何を得て欲しいか」とロジャースに尋ねると「人々に受け取ってほしいのは、友情は政治システムを超越するということです。友情はすべてを超越する。私たちの友情は、ソビエト連邦、アメリカ、冷戦など……それらを超越するものです。私たちは友人なのだから、そんなものはすべて忘れてしまえばいい」と回答。パジトノフは「私は今作に興奮しています。好きなゲームの人生で最もエキサイティングな瞬間です」と語っていた。

テトリス」は、Apple TV+で配信中。

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