「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」監督インタビュー 「私は彼の言葉を伝えるメッセンジャー」

2023年3月24日 19:00


ブレット・モーゲン監督
ブレット・モーゲン監督

世界的ロックスター、デビッド・ボウイの財団初の公式認定映画で、彼の人生と才能を膨大なアーカイブ映像から紐解くドキュメンタリー「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」が公開された。

ボウイが30年にわたり保管していた未公開映像と、「スターマン」「チェンジズ」「スペイス・オディティ」など代表曲を含む40曲で構成。臨場感あふれるライブ映像や、インタビューとともに全編にわたってボウイ本人によるナレーションを使用し、スーパースターのスピリットを伝えるゴージャスな映画だ。ブレット・モーゲン監督が来日し、インタビューに応じた。

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――この映画では偉大なアーティストを紹介しますが、その一方で映像作家としてのあなたの作品でもあると思います。監督の作品としてのこだわりを教えてください。

伝記映画とはある意味作り手の自伝を作るようなもので、同じ人物の伝記映画でも、作り手それぞれの人生経験が違えば、違ったものが出来上がると思うのです。アーティストとして、そのことに気づくことができれば、もっと映画から得るものがあり、いい映画ができます。ですから、これはデビッド・ジョーンズ(ボウイの本名)の映画ではないし、過去についての映画でもない。今現在の私が反映されていると思います。

そういうやり方は、「くたばれ!ハリウッド」(2002)を作った頃から自覚していましたが、この映画で感情面が他作品と異なるのは、自分が2017年に大病を患ったこと。だから彼のメッセージは、私たちの命が限りあるものであるということ、その時間の中でどのように生きていくのか、ということが反映されていると思います。

――アーティストして、あなたとボウイはどのような部分が共鳴しましたか?

私は彼の言葉を伝えるメッセンジャーなので、彼から吸収し、学びました。アーティストとして、常に自分に挑戦を突き付ける姿勢、そのフォルム自体を作品とすること、そして、決して落ち着くことなく常に新しいものを見つけようとすること。また、何かが訪れた時に、お金という理由よりも、クリエイティビティに応えることを選ぶ、そういったことに共鳴しました。

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――ボウイは東洋的な文化からも大きな影響を受けていたようです。特に日本とのかかわりでどのようなものを受け取っていたと思いますか?

日本からの一番大きな影響は歌舞伎からだと思います。それから東洋哲学、東洋思想。彼は直接東洋に触れる前から、東洋の概念を持っていたと思います。歌舞伎を取り入れる以上に前面に押し出した(西洋の)アーティストはいないのではないかと思います。彼のキャリアのアプローチも歌舞伎的なものを感じます。

だからデビッド・ジョーンズの映画を作ろうとは思わないのです。今回の僕の映画も「(カギカッコ)」内に入ったデビッド・ボウイという人物の映画になっていて、それはある種誰もが自分の経験を含めて投影できるキャンバスみたいなものを見せてくれる。それがボウイのマスクなのですが、それは歌舞伎由来のものだと思います。

また、ボウイが精通していた劇作家のベルトルト・ブレヒトと歌舞伎ではっきりとした類似点が無かったとしても、何か哲学的に関係性はあって、ボウイはパフォーマンスにおいて、東西の哲学の架け橋のような役割を担ったのではないかと思うのです。

――ブライアン・イーノとの取り組みなど、ボウイは最新テクノロジーも積極的に作品に取り入れていましたね。

僕自身、テクノロジーがあるからこそできる創作、模索があると思います。ボウイの作品はその時代のタイムスタンプが押されているかのように作られています。それは、ある種の文化人類学者のようなもの。さまざまなテクノロジーを取り入れることによって、その時代のタイムスタンプを押していた。あと彼は、インターネットで人間は民主化すると、早期から気づいていました。もともとアーティストと観客の関係性に興味を持っていた人ですが、ネットがあることによってリスナー側がエンパワーメントされることを理解していたのです。

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――本作に撮りおろしの映像はなく、過去の素材を組み合わせたドキュメンタリーです。例えば撮影技術や知識がなくとも、編集能力で映画監督になることは可能でしょうか?

650時間、カラーグレーディングに時間をかけています。それは違った形の撮影だと思うのです。今回、本来意図されたカットとは違う形で使い、元の素材のまま使ったシーンは一つもありません。そういう意味で、ノンフィクションとしてこの作品ほどデザインされた映画はないと思います。

もちろん編集も大事ですが、3つの重要な点があります。一つがモンタージュ、そしてサウンド、そして色です。それぞれのために準備をし、等しく扱われなければなりません。それぞれが対話をするきっかけを与えてくれるものです。総論として、撮影を全く知らない人がこのような映画を作るのは難しいと思います。

(執筆者:松村果奈)

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