「ファーザー」の監督が新作で“心の病”を描いた理由「オープンに会話できるきっかけになってほしい」

2023年3月17日 18:30


フロリアン・ゼレール監督
フロリアン・ゼレール監督

ヒュー・ジャックマンが主演と製作総指揮を務め、「ファーザー」でアカデミー賞脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール監督がメガホンをとった「The Son 息子」が、3月17日から公開された。本作で描かれるのは、心に病を抱えた息子と父親の関係性。“心の病”をテーマにした理由やキャスティングについて、ゼレール監督に話を聞いた。

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本作は、ゼレール監督自身の戯曲「Le Fils 息子」を原作とした「ファーザー」に続く家族3部作の第2部となっている。優秀な弁護士のピーター(ジャックマン)は、新たな家族と幸せな日々を送っていた。ある時、前妻と暮らしていた17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が、ピーターのもとに引っ越したいと訴える。ニコラスは心に病を抱え、絶望の淵にいたのだ。ピーターは息子を受け入れ生活を始めるが……。

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ポスタービジュアルには笑顔のヒュー・ジャックマンが切り取られ、さわやかな感動作品のような印象だ。しかし、実際に鑑賞すると、「衝撃と慟哭の物語」という公式の紹介通り、父子が辿る結末に大きな衝撃を受ける。そして、本作をきっかけに、心の“重荷”が少しでも軽くなる人がいることを願わずにいられなかった。

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――ゼレール監督の体験から本作の着想を得たと伺いました。

僕自身の物語ではないですが、本作で描かれている感情というのは、僕にとってとてもなじみのあるものです。ヒュー・ジャックマンのキャラクターには、父親としての自分が投影されているところもあります。僕には息子が2人いるのですが、その1人が10代のときに大変な時期があって、鬱と呼べる状況を経験しました。そのときに僕は無力だなと感じてしまったんです。それと同時に、世界中の多くの人が同じ気持ちを経験していると感じました。“心の病”の話題に関しては、罪悪感や否定する気持ちがつきまとってしまうので、芝居や映画として描くことでよりオープンに会話できるきっかけになってほしいと思いました。みんながちゃんと話すことができれば、僕らはお互いに助け合うことができるし、助けを求めている人に手を差し伸べることもできると心から信じています。

3月17日から公開中
3月17日から公開中

――映画の最後には「to Gabriel」という献辞が入ります。このガブリエルさんが監督の息子なのでしょうか。

そうです。まず、彼が同意していないと戯曲は書きませんでした。彼はとても知的な子で、作品がアートだということ、感情を掘り下げる作品だということ、そして“僕ら”の物語ではないということを理解して、「いいよ」と言ってくれました。ガブリエルの名前を入れるのはパーソナル過ぎるかもしれないと悩みましたが、彼の同意を得て入れることにしました。この物語自体が羞恥心を感じずオープンに話そうと呼び掛けているので、まず自分がそれをしなければと思ったからです。

ガブリエルは、フランス人のインターンとして映画にも出演しています。10代の頃はつらい時期もあったけれど、今は生き生きと過ごしています。でも、もしかしたら違ったエンディングがあったかもしれないです。確実にそういうこともありえたので、それを掘り下げるための作品でもありました。

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――ニコラスを演じたゼン・マクグラスさんがとても印象に残りました。オーディションで選んだそうですが、どんな点が決め手になりましたか?

キャスティングは本能的なプロセスなので、時にはどうしてこの人を選んだのか理解できないときもあります。今回はヒューがいてローラ(・ダーン)がいてバネッサ(・カービー)、アンソニー(・ホプキンス)がいて、まだ顔の見えない17歳の少年を見つけようとなったとき、いろいろな国からオーディションのテープが送られてきたんです。

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ゼンはオーストラリアのメルボルンから来ています。テープの中でもオーストラリアの訛りがありました。コロナ禍でなかなか会えず、実際に会えたのは撮影の2日前でした。そういうこともあって、彼を起用すると大変だとわかっていましたが、それでも出演してほしいと思ったのは、オーディションの映像を見たときに、彼が真実に迫るものを持っていたからです。

ゼン・マクグラス
ゼン・マクグラス

今回参加してくれたみんなにパーソナルな理由があったと思います。ヒューとローラは親として経験したことを表現したいと思って参加してくれた。ゼンは心の中でどんなことを考えているのかなかなか見えない感じが良かったです。避けたかったのは、心を病んでいるように見える演技でした。ニコラスに今何が起きているかわからないような演技をしてほしかったんです。心を病むと、どこかに恥ずかしいという気持ちがあって、周りの人に対して自分は大丈夫だというふりをします。僕にとっては、メンタルヘルスの問題はブラックホールのように周りを吸い込んでしまう。簡単なものではないし、一言で説明できるものではないということも、この映画で映したかったんです。

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