【「バビロン」評論】ハリウッド確立期の狂騒を、パーカッションの唸りと共に活写する!

2023年2月11日 15:30


「バビロン」
「バビロン」

前作「ファースト・マン」(2018)では偉大なアストロノーツの葛藤に足場を置き、NASAの月面踏査プロジェクトを俯瞰した監督デイミアン・チャゼル。新作はアメリカ宇宙史からアメリカ映画史へと対象を変え、サイレント(無声)ムービー時代の束の間の栄華を、昨日の出来事のように生々しい質感をまとわせて活写する。

スター起用の娯楽映画を量産し始めた、ハリウッド確立の時代。産業としての成長に併せて映画人は特権階級とばかりに自我を肥大化させ、夜な夜な繰り返されるグロテスクな宴にどっぷりと浴していた。そこで顔を合わせた大物俳優ジャック(ブラッド・ピット)と、スタジオでの出世をもくろむ青年マニー(ディエゴ・カルバ)、そして女優になって脚光を浴びたいネリー(マーゴット・ロビー)らが幸運な相関を経て、まさに“バビロン”というべき映画の都で成功を遂げていく。

歳若い監督が映画史の一地点に視座を据え、フィクショナルな業界哀歌を長尺でつづる共通点から、本作はポール・トーマス・アンダーソンが手がけた「ブギーナイツ」(1997)と似た肌触りを覚えさせる。またそれ以上に、映画の変革が遠因となって陰惨な連続殺人を派生させた、市川崑による「悪魔の手毬唄」(1977)と同じ韻を踏んでいる。そう、サイレントがトーキー(発声)映画によって駆逐され、客が古い価値観に見切りをつけたとき、本作の悲壮とテーマがむっくりと頭をもたげてくるのだ。

映画はテクノロジーの芸術であり、輝かしい進化の果てには淘汰がある。たが過去は等しく記録として残り、人々に夢と憧れを与え続ける。チャゼルはこうした媒体の両面を同時に捉え、お定まりの教訓めかしい栄枯盛衰を越境した、狂騒的なエピックを展開させていく。さらには大きく物語を飛躍させ、悶絶するような映画愛を唱える陶酔感に、同監督の「セッション」(2015)の鑑賞後を思い出す人もいるかもしれない。

なにより浮世離れした業界の放蕩ぶりが、そのまま煌びやかな絢爛絵巻となって観る者を惹きつけ、パーカッションの獰猛な響きがハイテンポに拍車をかける。そんなチャゼル独自のセンスと呼吸で魅せる3時間5分は、長い短いを議論外とする放心の境地に我々を連れていってくれるのだ。もっとも、冒頭の思いがけない糞シャワーの洗礼に耐えればの話だが。(尾崎一男)

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