実在の殺人犯の思考回路をどう理解した? 相次ぐ入院患者の不審死「グッド・ナース」秘話

2022年11月11日 09:00


ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメインが共演
ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメインが共演

実在の事件をもとに入院患者の不審死に隠された恐怖を描くNetflix映画「グッド・ナース」のイベントが、ニューヨークのDGAシアターで行われ、ジェシカ・チャステインエディ・レッドメイン、メガホンをとったトビアス・リンホルム監督が製作秘話を語った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

本作は、チャールズ・グレーバー氏の著書「The Good Nurse(原題)」を原作にした、実話に基づくスリラー映画。看護師でシングルマザーのエイミー・ロークレン(チャステイン)は、重い心臓病を抱えながら、過酷な夜勤の連続で肉体的・精神的に限界を迎えていた。そんなある日、彼女の部署に思いやりがあって親身になってくれるチャーリー・カレン(レッドメイン)が同僚としてやってくる。 2人は病院で共に過ごすうち、固い絆で結ばれ親友になるが、病院では患者の不審死が相次いで発生。その容疑者として、チャーリーが候補にあがる。

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原作を脚色したのは、「1917 命をかけた伝令」「ラストナイト・イン・ソーホー」のクリスティ・ウィルソン=ケアンズ。リンホルム監督が、ウィルソン=ケアンズが手掛けた脚本を読んだのは、今から7年前のことだった。

リンホルム監督「クリスティの脚本には、今まで見たことがない物語の足掛かりがあることに気づかされました。それは人の優しさ、真の人間的価値をとらえたものでした」

脚本に惚れ込んだリンホルム監督は、そこから原作を読んだうえで、実在の人物“エイミー”に電話したそう。

リンホルム監督「(実話ではあるが)あまりにも多くの点が“出来すぎていた”ので、色々確認をしなければいけませんでした。出来すぎていた点というのは、チャーリーが行ったことではなく、エイミーがチャーリーに人間性を思い出させ、“告白”を導いたこと。エイミーは、それが事実であることを認めてくれました。そこから脚本上のありふれた表現を取り除き、7年をかけて製作していったんです」

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では、実在するエイミーを演じるために、どのようなアプローチを行ったのだろうか。

チャステイン「エディと私は看護学校に2週間通いました。その他にも本を読んだり。医療専門家から心筋症について学ぶためのドライ研究(コンピューターを用いた解析・実験を指す。反対の意味は、生物学的な実験を行うウェット研究)などにも取り組んだんです」

チャステインは、エイミー本人に「なぜ夜勤看護師として働いていたのか?」と尋ねたそうだ。エイミーの答えは「私の娘たちには、(昼間、私が家にいることで)専業主婦がいると思って欲しかった」というもの。チャステインは、それこそが本作の核だと感じたそうだ。

チャステイン「エイミーは、他の人(患者)の世話をするために一晩中働き、家に帰ってからは、子どもたちが学校にいる間は掃除、洗濯、買い物、子どもたちが帰ってくると彼らの世話もしていました。だから、彼女は自分の面倒を見ることができなかったんです。私は、他人を思いやることができる人、そして誰かを思いやる姿は、とても美しいに違いないと感じました。これが大きなきっかけとなって、私はエイミーの内面を考え続けました。彼女のハートの状態(=心臓)は芳しくなかったけれど、私が今までに知っていた誰よりも、彼女は大きな心を持っていました」

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エイミーのような看護師は、他人の人生そのものを委ねられることや、長時間労働によって、大きなストレスに苛まれる。それでも実生活と仕事のバランスをとらなければいけない。本作では、そのような状況下での“正直な感情”が描かれているのだ。

チャステイン「リンホルム監督は、俳優にある程度のプレッシャーをかけるために、実際に医療従事者の人たちに関わってもらって撮影を行っていました。彼らがいたことで、(経験の浅い)我々が『自分たちは、今何をやっているのか』という点を、しっかり把握しているように見せることができました。演技をすることができたのは、彼らへの感謝と敬意によるもの。彼らの仕事ぶりには、本当に感動しました」

リンホルム監督「エイミーが、昏睡状態の患者ホリーの病室に入って、枕をふわふわにして立ち去るシーンがあります。あのシーンからは、病院で働く看護師の人生における、心の鼓動のようなものを感じることができました。そのような形で、ジェシカは僕のサポートをしてくれていたんです。エイミーが病室に入って、昏睡状態のホリーに語りかける。このことで、どんなに仕事が大変でも、どんなにプレッシャーを受けていても、エイミーが、毎日人間味を持って働いているということが理解できるようになっているんです」

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レッドメインは、連続殺人犯チャーリーの思考回路をどのように理解していったのだろう。エイミーとの日々では“違う顔”を見せるチャーリー。だからこそ「これほど愛らしい人を演じることになるとは考えてもいなかった」という。

レッドメイン「まず、チャールズ・グレーバーの著書を読むことから始めました。著書の3分の2は、チャーリーの人生、子ども時代、トラウマなど、驚くべきことが詳細に記されていて、俳優にとっては、ある意味夢のような役だと思いました。チャーリーの人生に興味があるならば、読む価値が十分ある本だといえます。そして、彼の正体がわかると、夜に患者と2人きりにさせていたことが信じられなくなるでしょうね」

さらに、エイミーとの会話については「素晴らしい体験になった」と述懐。「彼女は『私は彼を愛していた。彼は親切で、共感的で、気難しい看護師でした。 彼は、私の命を救ってくれました。 そして、私は別の人間(=殺人鬼としてのチャーリー)に2回会いました』と語っていました。彼女は彼が傲慢であると説明していました。彼の目の中で何かがシフトした瞬間、別の人間に変わったそうなんです。解離性の一面を説明してくれました」と話してくれた。

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本作では「医療機関の対応」もテーマの一つになっており、チャーリーは「彼らが私を止めなかったから、私はそれをやった」と答えている。リンホルム監督は、このテーマについて、このように力説した。

リンホルム監督「病院のシステムが崩壊している点。誰もが問題から目を背けようとすること。これは、医療機関の人々がそれぞれの人生を守らなければいけなかったから起こりました。そんな医療機関が無視してきた問題によって、心臓病を抱えた夜勤のシングルマザーの看護師が、チャーリーの行動を見張るという責任を押し付けられたわけです。そこに、今作を手掛けた理由があります。医療制度のシステムは、医療関係者などを含めた医療機関、一般の人々によって形成された社会、さらにシステムを施行する政府とともに構築されています。それぞれが自身の持ち場で責任を果たさなければ、医療制度システム自体が意味を成しません。システム自体に裏切られてしまうと思っています」

グッド・ナース」は、Netflixで独占配信中。

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