【「さがす」評論】もっとも見てほしい佐藤二朗がここにいる 予想外の終点へと誘われる“さがす”物語

2022年1月22日 22:00


「さがす」
「さがす」

片山慎三監督の新作――待ちわびていた1本だ。初手となった「岬の兄妹」で重い一発をくらい、実在の事件をフィクションへと鮮やかに落とし込んだ「そこにいた男」に唸り、WOWOW版「さまよう刃」によって暗澹たる気持ちにさせられた。毎度毎度、心がしんどくなるのだ(それが心地よい)。唯一無二の衝撃作と銘打たれた「さがす」。同作もまた、平静を保つことが難しかった。

発想の源となったのは、片山監督の父親の実体験。「大阪で指名手配犯を見かけた」。そんな非日常の出来事から、独創的な物語が立ち上がっていく。実際に起こった数々の事件の要素を織り交ぜつつ、不穏な言葉を残して姿を消した父、中学生の娘、指名手配中の連続殺人犯の行動と決断を“三本柱”として、予測不能のストーリーが進行していく。

商業デビュー作でシリアスな演技を見せてほしい――佐藤二朗は、片山監督たっての希望で主演を託された。人として生きることの苦悩と矛盾を体現し、真相が明らかになるまで「一体、何を考えているのか判然としない」という不穏さを身に宿す。この底知れぬ凄みたるや……。パブリックな「笑い」というイメージだけでとらえるのは勿体ない。今、もっとも見てほしい「俳優・佐藤二朗」が、ここに映し出されている。

さて、佐藤は主演という立場上出ずっぱりかと思いきや、序盤で早々に姿を消してしまう。私たちはタイトル通り、登場人物たちと共に、彼を“さがす”ことになるのだ。この行為を表したシンプルなタイトルが秀逸。額面通りにとらえれば「父を“さがす”」ということになる。しかし、これはあくまで「娘の視点」。物語は次第に「殺人鬼の視点」「父の視点」へと切り替わる。そして、各パートにおいて“さがす”という言葉の意味合いが増えていく。それぞれが何をさがしているのか――これが作品のキモとなっているのだ。

さがす”という行為は、目的の存在に対して、直線的に進むことの方が稀だろう。蛇行し、道を誤ることもあれば、引き返すことだってある。片山監督は、その過程に仕掛けを忍ばせる。それが終点へと辿り着くまでに「見たくないもの」「気づきたくないもの」を認知させるというもの。これらの積み重ねによって、キャラクター(と観客)は始点からは想像だにしない結末へと誘われてしまう。

佐藤だけでなく、伊東蒼清水尋也森田望智らの存在感も◎。全員怪演といっても差し支えない。目を背けたくなるような描写、ヘビーなエッセンスをはらんだ内容ではある。しかし、ち密に構築された脚本、片山監督らしいユーモラスな描写が強みとなり、エンタメ性に富む仕上がりになっている点が、とにかく素晴らしい。

(岡田寛司)

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