「よだかの片想い」脚本・城定秀夫、安川有果監督によるラストシーンに感嘆「嫉妬に近い感情が芽生えた」

2021年11月6日 15:30


松井玲奈が顔にアザを持つ女性、中島歩が彼女を撮りたいと申し出る映画監督を演じた
松井玲奈が顔にアザを持つ女性、中島歩が彼女を撮りたいと申し出る映画監督を演じた

第34回東京国際映画祭の「アジアの未来」部門に出品された「よだかの片想い」が11月6日、東京・角川シネマ有楽町で上映され、Q&Aに安川有果監督(「Dressing Up」)と、脚本を手がけた城定秀夫(「アルプススタンドのはしの方」)が登壇した。

本作は、松井玲奈中島歩が初共演を果たし、島本理生氏の同名小説を映画化するもの。生まれつき顔にあるアザに劣等感を抱く大学院生・前田アイコ(松井)は、幼少期からからかいや畏怖の対象にされ、恋や遊びは諦めていた。大学院でも研究一筋の生活を送っていたが、「顔にアザや怪我を負った人」のルポルタージュ本の取材を受けたことで、状況が一変。本の映画化が決まり、アイコは自分の顔を真っ向から肯定する監督・飛坂(中島)に惹かれていく。

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Q&Aセッションの冒頭では、城定は映画への感想を語った。

城定「(ティーチインが行われた)11月3日に初めて見て、最初は自分が書いたものなので恥ずかしかったんですが、最後は素直に感動して、余韻がまだ残っているぐらい、良かったですね。途中から安川さんとかなり密に打ち合わせを重ねながら、現場でも書き変えて、途中からは『自由にしてくれ』という形で渡した脚本だったので、いろいろ変わったところもたくさんあるんですが。かなり前に書いた脚本ということもあって、新鮮に見ることができました」

「完成した作品を見て、予想よりも遥かに良かった点」を観客に問われ、城定は「ラストシーン」を挙げた。実はラストシーンは原作小説にはなく、城定が加えたもので、安川監督が長回しで撮影した。「『踊っている』というト書きだけだったのに、こんな風に素敵に撮ることができるのはすごいなと思いました。見ていて自分には絶対撮れないなと、嫉妬に近い感情が芽生えましたね」

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物語には、アザへの偏見と向き合う女性を描くという社会的な要素と、恋愛ストーリーの要素が、絶妙なバランスで存在している。この点については、安川監督と城定の間でも、激論があったそう。

城定「いちばん監督と話し合い、喧々諤々で、朝から夜までずっとその話をしていた日もあったんですが……。アザへの偏見などの社会的な問題を提起する部分を大きく扱うのか、ひとりの女性の恋愛映画に焦点を当てるのか、そのバランスがすごく難しいところで。僕は堅苦しくない映画にしたいと思っていたんですが、安川監督は社会的な部分も扱っていきたいということで、短い時間のなかで(ふたつの要素を)どう配分していくかというのは、いちばん苦心した点ですね。ただ完成してみると、もちろん両方の要素があるうえで、青春映画になっていて良かったなと思いましたね。アイコをかわいそうに描きたくないというのは、最初に思っていたところでした。僕の側から成長といってしまうと偉そうになってしまいますが、本人にとってはそういう(成長できたという)思いで踊っていたのかなと。偏見と闘うとか、そういうものを何か超越した踊りだったのかなあと思いましたね」

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城定がラブストーリーとして楽しめる作品にしたかったと語る一方で、安川監督は、女性が美の抑圧を感じざるをえない社会など、“いま描くべきテーマ”を重視したいと考えていた。「ついセリフで説明して、説教臭くなってしまいそうなところに、城定さんが『そうじゃないんじゃないか』と言って下さったので、すごく良いバランスになったんじゃないかと思います」と、議論のなかで、バランスを構築していったと語る。加えて、安川監督が悩んだのは、「アザのある女性を描きたい」という思いを抱える映画監督・飛坂の在り方だ。

安川監督「彼が『アザのある女性をどうしても描きたい』と思うのは、なぜなんだろうと。『アイコに惹かれたから』というのは嘘だとは思わないし、本当だと思って演出もしていたんですが。そのあたりの飛坂の感情は無視できないなと思ったので、後半に当事者じゃない人間が、(アザのある女性を、映画の題材として)扱うことへの考えを語る一連のシーンは、私の方で足して、書かせて頂きました。飛坂は、すごく気持ち悪く見えてしまう人物になってもおかしくないなと思いました。どっちに寄せて演出するべきか、ということも難しくて。やっぱり中島さんが演じてくれたことが相当大きくて、少し天然っぽさもあるような、悪気がなくイノセンスな雰囲気もあり、どこか野心もあるような、白黒つけられない、攻めきれない人物を絶妙に演じて下さったなと思います」

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城定「飛坂がやっていることはすごく残酷なことでもあって、それはとりもなおさず、この映画で僕らがやっていることの残酷さでもあって。そこに何か、映画がもとから持っている原罪を感じるんですよ。飛坂のキャラクターは、許せてしまったり、時として許せなかったりという部分で、アイコもすごくぐらぐらして、(飛坂は)すごく罪な男だなと思うんです。でも最終的に嫌な感じにならないのは、やっぱり中島歩さんの力だと思います」

第34回東京国際映画祭は11月8日まで、日比谷、有楽町、銀座地区で開催。

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