【インタビュー】“護られなかった者たち”の代弁者に――佐藤健×阿部寛の使命感

2021年10月2日 12:00


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「64 ロクヨン」前編・後編や「8年越しの花嫁 奇跡の実話」などの瀬々敬久監督がメガホンをとった「護られなかった者たちへ」が、10月1日から公開された。連続餓死殺人事件を通して、今も残る震災の爪痕や、それによって深刻化する生活保護の問題を描き、現代社会に疑問を投じる。深い余韻を残す本作で、事件の容疑者を演じた佐藤健、刑事を演じた阿部寛に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/山口真由子)

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東日本大震災から10年目の宮城・仙台で、全身を縛られたまま餓死させられるという不可解な連続殺人事件が発生する。捜査線上に浮かび上がったのは、過去に起こした事件で服役し、出所したばかりの男・利根泰久。刑事の笘篠は利根を追いつめるが、決定的な証拠がつかめないまま、第3の事件が起きようとしていた。佐藤が容疑者の利根役、阿部が利根を追う刑事・笘篠役を演じるほか、清原果耶倍賞美津子吉岡秀隆林遣都永山瑛太緒形直人らが脇を固める。

――今回出演を決意された一番の理由を教えてください。

佐藤:原作を読んで考えさせられましたし、それを映画化して今の社会にさまざまな問題を問いかけられる意義があると思ったので、出演したいと思いました。生活保護という社会の問題に焦点を当てていますが、僕は出演するまでそこまで詳しくなかったですし、映画で描かれるような現状があることも知らなかったです。

社会のシステムに対して、理不尽さや悔しさなどいろんな感情を持っている人がきっとたくさんいると思います。利根を通して、そういった人たちの代弁者になれればと思っていました。利根という人物に向き合い、その結果共感してくれる方々がいたらいい、悔しさを感じてもらうことが今回の使命だと思っています。

阿部:震災から10年が経って、その後がどうなっているのか届かない部分も多くあります。その問題に焦点を当てていて、意味のある作品だと思いましたし、久しぶりにご一緒した瀬々さんがこの作品をどう描くのかにも興味がありました。

宮城の撮影現場は、震災直後の様子が再現されていて、撮影で作られたものではありますが、その場に立った時、その光景に圧倒されました。その日も震災当時と同じように星がきれいで、目の前の陸の荒れ果てた姿と星空の静けさに何ともいえない切なさを感じました。

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――お2人は「劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル」以来、11 年ぶりの共演となりました。改めて、久しぶりに共演されていかがでしたか。

佐藤:大変光栄でした。もともと「TRICK」のドラマシリーズが大好きだったので、当時共演できたときも嬉しかったですし、感動したのを覚えています。今回は肉体的にも精神的にもハードなシーンでご一緒することがほとんどだったのですが、阿部さんだったら受け止めてくれるだろうっていう大きさを感じていたので、思い切ってぶつかることができて、非常に助けられました。

阿部:もう11年経ったんですね。今回は本当にハードなシーンばかりで、佐藤さんは役に入っていく方だと以前から聞いていたので、佐藤さんの集中力を現場で見させていただき、その空気を邪魔しないでいこうと思いました。邪魔する人間ではないですけれど(笑)。現場でいろんなものを感じて、いい刺激をもらいました。

佐藤さんを走って追いかけるシーンは、2日に渡って撮影しました。“走る刑事”というのを初めて体験したのですが、いざやってみたら走っているときにこんなにもいろんな感情が湧いてくるものかと驚きました。その一つは犯人の気持ちにいつの間にかなって、犯人になって走っているような不思議な感情でした。

佐藤:あのシーンの撮影は本当にきつかったです。1回のテイクで走る距離が結構長くて、それを何回もやるので。僕はいろんな作品でよく走らされる方ですが、今回は結構大変でしたね。

阿部:だいたい1回で2、300メートル以上走っていたと思います。

佐藤:後日阿部さんにお会いしたとき、僕は結構筋肉痛になっていてしんどいなと思っていたら、阿部さんはポーカーフェイスで(笑)。

阿部:そこから半年苦しみました(笑)。

佐藤:(笑)。走るシーンもですが、阿部さんとご一緒したシーンは本当にコアなシーンばっかりだったので、取り調べやラストシーンなど、すべてが印象に残っています。

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――泥水に顔を突っ込まれた状態で叫ぶ佐藤さんのシーンは、ここまでやるのかと驚きました。

佐藤:あのシーンでは、相手の方に「遠慮しないで思い切ってやってください」と、僕と監督からお伝えして撮影に臨みました。目に水が入ったし、水を飲んでしまったのでお腹を壊さないかだけ心配でしたが、僕の芝居への姿勢はいつもと同じなので、特別変わったことはしていません。今回のミッションは、人の温かさを知ってからの利根の怒り、悲しみ、悔しさを表現することです。それが実現できるように、脚本の段階から監督と細かい部分を確認しながら話し合いをしていきました。

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――新型コロナウイルスの影響で撮影が中断したこともあったそうですが、撮影当時はどのような思いでこの作品に臨みましたか。

佐藤:コロナ禍で撮影できるか本当に微妙なところでしたが、なんとかいろんな環境を整えていただいて、ありがたいなと思ったのと同時に、最後まで撮りきるための緊張感が常にありました。これからどうなっていくかもわからないし、先が見えない状況の中で現場が始まりましたが、周りを見渡したらみんな同じだったので、不安な思いはスタッフの皆さん含め全員感じていたと思います。でも、僕としてはやることはいつもと変わらず、役としっかり向き合うことだけでした。

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阿部:撮影期間も延期が続き、不安もありましたが、最後まで撮影ができたこと、皆さんに感謝しています。現場を作ってくださったスタッフの方々や、エキストラの方々、地元の方々にもご協力していただいたので、最後までまっとうしないといけないという集中力は今まで以上に強かった現場でした。

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