【「プロミシング・ヤング・ウーマン」評論】ピンボールの球になったかのような衝撃をもたらす斬新な復讐エンターテインメント!

2021年7月18日 21:00


「プロミシング・ヤング・ウーマン」
「プロミシング・ヤング・ウーマン」

かわいらしくてポップでガーリー。なのに毒々しくショッキングで、ブラックだがロマンティックな一面もあり、笑える。そしてひどく切ない。相反する味わいをミックスしてあらゆる意味で観客の意表を突いてくる、果敢なリベンジ・エンターテインメントである。復讐の天使、キャシー(キャリー・マリガン)が鉄槌を下す相手、それは自分をナイスガイだと思っている、世の罪深き男どもだ。

10数年前、大学の医学部に在籍する“将来有望な若き女性”だったキャシーは、ある事件で親友のニーナを失う。そして人生のすべてを見失ってしまったのだ。

いまの日本にとって実にタイムリーなテーマだ。昨年度のアカデミー賞脚本賞候補作なのだが脚本・監督のエメラルド・フェネルは予知能力があるのかと思うほど。森元首相(元東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長)の問題発言などで男性の無自覚な女性差別意識が露呈し、「ふざけるなー」と叫びたくなっている女性にとって、キャシーはカタルシスをもたらしてくれる必殺仕置き人かもしれない。だが、それだけでは終わらないのがこの映画だ。中盤以降の展開はまさに予測不可能。観客はピンボールの球になったかのような衝撃&アップダウンを味わうことになるだろう。選曲のセンスや笑いの直後に戦慄させる急旋回などはタランティーノにも通じるテイストがあるが、リアルで斬新! ぜひこれ以上の情報を入れずに驚きとスリルを感じてほしい。

この先は鑑賞後の読者へ。男性のなかには「アンフェアだ」と感じる人がいるかもしれないが、そうだろうか? キャシーは女性の代弁者かもしれないがヒーローではない。惨めさを自ら深掘りし続ける彼女みたいになりたいなんて、誰が思う? それにお仕置きは男性だけではなく、無自覚に罪を犯した女性たちにも及んでいる。

一番グッと来たのは、観客の想像力に委ね、感情を揺さぶる描写力だ。ニーナは登場しないし回想シーンもない。だが、ずっと強く感じていたのはこれがキャシーとニーナのラブ・ストーリーだということ。純粋な友愛だったのだろうが直接描かず、その深さを観客が想像できるように導いて余韻を残す。現在進行形で初恋のように燃え上がるライアンへの恋心さえ、適わない愛……。すべてのなりゆきと結果は、愛ゆえなのである。

(若林ゆり)

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