【「17歳の瞳に映る世界」評論】望まない妊娠をした少女。その苦悩が垣間見える長回しシーンは、劇中最も胸を打つ

2021年7月11日 20:00


「17歳の瞳に映る世界」
「17歳の瞳に映る世界」

望まない妊娠をしたティーンエイジャーを主人公にしたアメリカ映画には、ジェイソン・ライトマン監督の「JUNO ジュノ」がある。16歳のジュノは、子どもを産んだのち養子に出す道を選択する。一方、この映画の17歳の主人公オータム(シドニー・フラニガン)は、親の同意なしに中絶が可能なニューヨークで手術を受ける道を選択する。出した結論の違う2人だが、共通点もある。ひとつは、人生の重大な決断を自分ひとりでしていること。もうひとつは、彼女たちがどんな選択をしようとも、つねに味方でいてくれる絶対的なサポーターが近くにいることだ。

オータムのサポーターは、従妹のスカイラー(タリア・ライダー)。「検査したの」の一言でオータムの妊娠を察したスカイラーは、バイト先のスーパーで資金をくすね、旅に付き添う。2人が住むペンシルベニアからニューヨークまではバスで2~3時間の距離。なのに、オータムは場違いな巨大スーツケースを持参する。それは、彼女が旅慣れていないお上りさんであることの証し。同時に、オータムが下した決断の重さの象徴でもある。そして、オータムが運びきれないスーツケースをスカイラーが運ぶとき、それは中絶の重荷を分かち合う2人の友情を物語るアイテムになる。雄弁ではない主人公の代わりに、エリザ・ヒットマン監督は、スーツケースに多くを語らせる。

原題の「Never Rarely Sometimes Always」は、ニューヨークのヘルスセンターで行われるカウンセリングの選択肢。「パートナーに暴力をふるわれたことは?」「性行為を強要されたことは?」といった質問に、「一度もない/めったにない/時々/いつも」の4択から答えるのだ。質問が立ち入ったものになるにつれ、冷静だったオータムも言葉に詰まり、涙を溢れさせる。その模様を長回しでとらえた場面は、劇中最も胸を打つ。中絶の決断の背後にあった苦悩が垣間見えるからだ。中絶の是非を超えたところで、オータムには、この大変な夜を、生きづらい人生を、生き抜いてほしいと願わずにいられなくなる。

(矢崎由紀子)

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