【「RUN ラン」評論】サラ・ポールソンが創り上げた強烈すぎる毒母像 言葉と行動の整合性のなさに震える

2021年6月19日 21:00


「RUN ラン」
「RUN ラン」

パソコン画面上でドラマが展開するという“縛り”を効果的に用いた「search サーチ」のアニーシュ・チャガンティ監督による新作は、またもや超シンプルなタイトルで好奇心を刺激する。Run=走る。冒頭から早速、その本来の意味が反転していく。ヒロインが背負うのは「不整脈」「血色素症」「ぜんそく」「糖尿病」「麻痺」という症状。今回の“縛り”は「走ることができない」というものだ。

物語の中心を担うのは、慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている少女クロエと、彼女の体調や食事を管理し、進学の夢も後押しする母親のダイアン。17年という歳月を二人三脚で歩んできた親子。チャガンティ監督は、ここに「ダイアンがモンスター級の毒母だったら……」というエッセンスを加え、美しき日常を“虚飾まみれの監獄”に一変させる。真実を知ったクロエの絶望は計り知れない。

「走ることができない」という“縛り”によって、物語は「最も身近な人間から逃げられるのか」という点をストレートに追求していく。ジャンルはサイコスリラーではあるが、逃亡者がクロエとなることで緊迫感に満ちたアクションにも思えてくるはずだ。ダイアンの采配によって、寝室は密室に、階段は急勾配の崖と化す。さらにこれでもかと加わるのが、病状の悪化。始終、手に汗握る展開が待ち受け、まったく気を抜くことができない。実生活でも車椅子を使用しているキーラ・アレン(クロエ役)の追い詰められっぷりは、痛々しくも見入ってしまう。

サラ・ポールソン(ダイアン役)の凄みの前に、幾度となくひれ伏すことになるはずだ。彼女が創り上げたダイアン像は、クロエを手元に置いておきたいという歪んだエゴと、娘に対する献身的な愛を等しく両立させてしまっている。傷つけながらも、本気で思いやっている――これが「毒母VS子」という明快な構図にもかかわらず、明らかに不審なダイアンを“信じてみたくなる”という錯覚を生じさせる。やがて気づかされる発言と行動の整合性のなさ。思わず震えた。おぞましくも魅力的なキャラクターの誕生だ。

クロエとダイアンの形勢は、まるでシーソーのように揺らぎ続ける。クライマックスへの畳み掛けには、思わず唸る。圧倒的不利の状況下、クロエに舞い降りたのは「無限の可能性」。この映画的飛躍が興奮必至。最小の動きで見せる、最高のアクションシーンだろう。あまりにも皮肉的な痛快エピローグも含め、90分という尺にまとめ上げたチャガンティ監督の手腕に脱帽だ。

(岡田寛司)

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