【「パピチャ 未来へのランウェイ」評論】暗黒の90年代を生きた「パピチャたち」の孤独な闘いが、現代に鮮烈にこだまする。

2020年10月30日 15:00


アカデミー賞の国際長編映画賞アルジェリア代表に選ばれながら本国では上映禁止に…
アカデミー賞の国際長編映画賞アルジェリア代表に選ばれながら本国では上映禁止に…

なんとタイムリーな映画だろう。暗黒の時代と呼ばれた90年代のアルジェリアを舞台にした本作は、いま世界で再び問題になっているイスラム過激派のテロと、女性の権利という2つのテーマを、ファッション・デザイナーを目指す、弾けるようなパワーに満ちた女子学生の姿を通して語りかける。アルジェリアに育ち、内乱の時代に家族とフランスに移住したムニア・メドゥール監督の、半自伝的な初監督作だという。

大学に通うネジュマは、夜な夜な寮を抜け出してはクラブに遊びに行き、友人たちからドレスの注文を受けている。彼女の目標は、大学でファッションショーを開催すること。だが、街は徐々にイスラム過激派に覆われ、大学内にも危険がひたひたと迫る。

ネジュマの親友たちもまた、それぞれに問題を抱えている。兄の決めた結婚を目前にして、恋人の子を身ごもったことを知りパニックに陥るサミラ、運命の出会いと思った相手がじつは封建的な暴力男だったワシラ。

メドゥール監督は、ネジュマが夢みるきらきらとしたランウェイと、外の暗黒世界とのコントラストを鮮烈に描き、自由を夢見る彼女たちの孤独な闘いを浮き彫りにする。

ボーイフレンドから「命があるうちにこんなところを出て一緒に人生を築こう」と誘われても、故郷を捨てることができないネジュマの頑固な姿は、観る者によってはもどかしく感じられるかもしれない。だが、自分自身とは異なる選択をヒロインに託したメドゥール監督はそこに、故郷への希望と愛を込めたのではないか。そして何より、ネジュマがみずからの手で自由を勝ち取り、真のパピチャ(愉快で魅力的で自由な女性の意味)になることを望んだに違いない。

本作は、アカデミー賞の国際長編映画賞のアルジェリア代表に選ばれたにも拘らず、本国で上映禁止になったという。そう、世界は残念ながらほとんど変わっていないのだ。否だからこそ、まるで小さな戦士のように果てしない闘いを続ける彼女たちの姿に、激しく心臓が波打つのである。

(佐藤久理子)

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