【中国映画コラム】「半沢直樹」「坂の途中の家」「ポルノグラファー」日本発ドラマに秘められた世界進出の可能性

2020年8月29日 11:00


「半沢直樹」(2020年版)は中国でも高評価!
「半沢直樹」(2020年版)は中国でも高評価!

[映画.com ニュース] 北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数278万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!


当コラムの第19回「なぜ『リトル・フォレスト』が大人気なのか?“TOP250”から読み解く、中国でウケる映画の傾向」では、ソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」のデータベースに基づいて、中国の観客が好きな映画の傾向を分析しました。興味深い内容となっているので、是非ご一読ください。実はもう少し「Douban」の事を書きたくてですね……。今回は、中国人が好きな日本ドラマをテーマに語らさせていただきます!

平成の民放テレビドラマ史上第1位の視聴率を記録した「半沢直樹」(2013版)から7年――コロナ禍によって3カ月の放送延期となった2020年版が、7月19日からスタートし、日本国内で圧倒的な支持を集めています。同シリーズは、海外でも超人気作品。「Douban」では、13年版に対して「約20万人が“見た”」をチェックし、点数も9.2という高得点。中国本土のほか、台湾、香港、韓国、東南アジア諸国、アメリカでも注目されていました。

20年版の制作が発表された際、中国での反響は非常に大きいものでした。「ずっと待っていた!」「13年版が素晴らしすぎて、永遠に忘れられない」「13年版のおかげで、私は日本語を勉強し始めた。今は字幕なしでも見ることができる」といった投稿が確認できます。20年版に対する評価は、日本と同様に高く、「Douban」の点数は前作超えの9.4に。中国の人気国産ドラマに負けないほど、幅広く支持されているんです。

では、中国では「半沢直樹」を何で見るのか? 実は、かなりややこしいことになっています。近年の中国では、配信プラットフォームの登場によって、海賊版を巡る状況がある程度改善され、正式にライセンス契約を結ぶ海外作品が増えています。ですが、中国政府の規則によれば、海外ドラマは「本国との同時配信・放送はNG」。噂では「半沢直樹」の20年版は、既に中国でのライセンス契約を決めたそうです。でも、今の段階では配信・放送はできない。結局、多くの人々が海賊版で視聴してしまっているというのが現状です。

第9回「報酬はゼロ、原動力は愛――“字幕組”が違法行為を止められない理由」でも紹介していますが、ドラマやテレビアニメの海賊版は、映画作品よりも簡単に制作することが可能です。インターネットが普及した現代では、放送が終わったテレビ番組の映像は、すぐさまネット上に流出してしまいます。“字幕組”はそれらの映像を発見すると制作に着手し、どんなに遅くても放送の翌日には海賊版を完成させます。「海賊版撲滅」に関する運動によって、多くの“字幕組”が廃業に追い込まれましたが、完全に消滅したわけではありません。

特に海外作品になると、事態は余計に深刻です。中国の海賊版を排除できたとしても、ロシアやイラン発の海賊版が出てきますからね。撲滅運動には限界があると思っています。当コラムの第9回では、“字幕組”の元リーダーに話を聞いています。そこで明らかになったのは、中国の観客が海賊版を通じて、中国国内では見ることができない「優良な海外作品」を鑑賞しているという事実でした。

「愛の不時着」
「愛の不時着」

ここで、少し視点を変えましょう。「20年上半期、日本国内で最も人気を集めたドラマは?」という質問に、皆さんはどの作品をチョイスしますか? その答えのなかには、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」が含まれるでしょう。同作は「冬のソナタ」以来の「韓国ドラマブーム」を巻き起こしたとされていますが、韓国は長年にわたって海外進出に力を入れています。「愛の不時着」が巻き起こしたブームは、その努力が実を結んだ結果と言えるでしょう。

03~04年の「冬ソナ現象」から、20年の「愛の不時着」のブームに至るまでの間、日本国内では社会的ヒットとなった韓国ドラマは登場していませんでしたが、その他のアジア地域では、「韓国ドラマブーム」は拡大し続けていました。「愛の不時着」の脚本家パク・ジウンによる「星から来たあなた」は、韓国国内だけでなく、中国本土、アジア諸国でも話題になりました。主演のキム・スヒョンは、当時、中国トップクラスの俳優を凌駕するほどの人気を獲得。中国では約35社の広告に起用され、1年弱で2億元(約34億円)以上を稼いだと言われています。

「トッケビ 君がくれた愛しい日々」
「トッケビ 君がくれた愛しい日々」

そのほかにも「トッケビ 君がくれた愛しい日々」「太陽の末裔 love under the sun」は、韓国以外の地域で話題を呼び、韓国ドラマのマーケットを世界に広げました。やがて、Netflixが存在感を強めていきます。Netflixは、アジア進出の際、まずは日本でオリジナル企画の開発に着手します。アニメ作品は順調に進んでいましたが、なぜか実写作品は思うような結果に結びつかず。その後、日本以外でのアジア地域でのプロジェクトに力を入れていきます。

「太陽の末裔 love under the sun」
「太陽の末裔 love under the sun」

韓国の制作会社は「Netflix=魅力的なプラットフォーム」と考え、「愛の不時着」を制作したテレビチャンネル「tvN」を中心に、Netflixと契約。Netflixの強大なマーケティングの力を得て、韓国ドラマの可能性はさらに広がりました。各国のNetflix配信ランキングでは、韓国ドラマが上位を独占。過去に制作された作品への需要も高まり、事業がどんどん拡大しています。

日本のアニメ作品は、既にNetflixを通して、世界中で配信されています。では、ドラマはどうでしょうか? 例えば「深夜食堂」シリーズは、Netflixと共同制作を行い、全世界に向けて配信を行っています。しかし、もっと多くの日本ドラマが、Netflixなどの世界規模のプラットフォームによって、配信されていってもよいのではないか――私は、そう考えています。その根拠が「Douban」のデータに示されているんです。以下の作品は、19年に「Douban」で人気を集めた日本ドラマの一覧です。

「凪のお暇」
「3年A組 今から皆さんは、人質です」
「グランメゾン東京」
「俺の話は長い」
「あなたの番です 扉の向こう」
きのう何食べた?
「これは経費で落ちません!」
「坂の途中の家」
「ポルノグラファー インディゴの気分」
絶叫

日本でも話題を呼んだ「凪のお暇」「3年A組  今から皆さんは、人質です」「グランメゾン東京」「俺の話は長い」は、中国でも同様に注目されていましたが、特筆すべきは、WOWOWの連続ドラマWとして制作された「坂の途中の家」「絶叫」が入っている点。角田光代さんの小説を、柴咲コウ主演で映像化した「坂の途中の家」は、裁判員制度を題材にしたサスペンスです。「Douban」の評価は、10作品中最高得点となる9.0。「素晴らしい社会派傑作が誕生した」「日本のドラマはやはり深い」などのコメントが見受けられました。

「坂の途中の家」
「坂の途中の家」

実は、連続ドラマWの作品は、以前から中国で非常に評価されていて、点数8.0以上(高得点)を記録する作品が数多く存在しているんです。つまり、作品のクオリティは、世界にも通用する。韓流ドラマと同様に、世界規模のプラットフォームでの配信を実現させれば、作品にとって新たなメリットが発生する可能性があると言えるでしょう。

もう1本、注目しておくべき作品があります。それは、FODオリジナルドラマ「ポルノグラファー インディゴの気分」です。シリーズ前作「ポルノグラファー」を含め、日本国内ではあまり注目されていませんでしたが、中華圏、アジア諸国では爆発的ヒット。キャストの竹財輝之助は、中華圏での知名度が急上昇し、配信プラットフォーム「bilibili」が主催したイベント「bilibili world 2019」にも出席しました。

「bilibili world 2019」に出席した竹財輝之助
「bilibili world 2019」に出席した竹財輝之助

「ポルノグラファー」シリーズは、作品の出来が素晴らしいという点に加え、中国では制作することができない「男性同士の恋愛」を題材にした点も人気の要因。中国では、いまだに作品に対する検閲が厳しく「制作することが出来ない物語」が多数存在しています。その一方で、中国人の視野は、海賊版などを通して広がっています。一般放送の作品では、内容に満足できない――“自由な制作”が可能な日本の深夜ドラマは、中国でたびたび話題になっているんです。

ちなみに、20年1月クールの日本ドラマのなかで、中国で最も人気となった作品は何だと思います? 日本で大きな話題を呼んだ「恋はつづくよどこまでも」? 先の読めない展開で視聴者をクギ付けにした「テセウスの船」? 実は、内田理央が主演したテレビ東京の深夜ドラマ「来世ではちゃんとします」なんです。性的にこじらせた者たちの姿を描いた内容は、中国の若年層にヒット。「主人公の価値観に共感した」「こんな大人向けの内容をきれいに描くことができるとは……さすが!」「これはリアルの社会だ。『汚い』けど、『汚い』でいいんだよ。皆“来世”で頑張ろう!」と共感の意見が多数を占めていて、「Douban」では約4万5000人が“見た”をチェック。7.7点の高得点を記録しているんですよ。

このように「Douban」のデータベースはチェックすればするほど、新たな発見があります。韓国ドラマは、海外でも細かく市場調査を行い、グローバルな配信プラットフォームを利用し、世界の視聴者を虜にしています。日本のドラマにも、その可能性は十分にあるはずです。

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