犬童一心監督、中尾広道監督「おばけ」に感じた“映画史の発見”「なんてブレッソン的!」

2020年2月15日 22:30


犬童一心監督(左)、「おばけ」の中尾広道監督
犬童一心監督(左)、「おばけ」の中尾広道監督

[映画.com ニュース] ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2019のグランプリを受賞した「おばけ」が2月15日、東京・京橋の国立映画アーカイブで上映され、メガホンをとった中尾広道監督、ゲストの犬童一心監督(「ジョゼと虎と魚たち(2003)」「最高の人生の見つけ方」)がトークイベントに出席した。

本作は、上映企画「第2回 Rising Filmmakers Project 次世代を拓く日本映画の才能を探して」の1本として選出。ひとりで自主映画をつくり続ける監督(中尾監督)と、彼を見守るはるか宇宙の星たち――誰も知らないささやかな映画制作の過程は、大きな宇宙へとつながってゆく。今回の上映では、ぴあフィルムフェスティバル後に再編集されたバージョンが披露された。

「おばけ」
「おばけ」

ぴあフィルムフェスティバルでも同作を鑑賞していた犬童監督は「中尾監督の作品を見ると、自分が彼ほど真剣に映画と向き合っていないと感じてしまう―ーまるで滝に打たれたかのような感覚を抱くんです」と胸中を吐露。可能な限り“自分ひとりの力でつくる”スタイルを貫いている中尾監督は、その選択について「手探りの状態で作っていくため、スタッフがいる場合、的確な指示を出せない」という理由があった。しかし“ひとりだからこそのメリット”もあるようで「効率が悪く、かなり時間がかかる。でも、そのひと時が頭の中を整理する時間にもなっているんです」と説明した。

すると、犬童監督はそのスタイルに“発見”という利点も付け加えた。「ひとりで向き合っていると『映画とはこういう風にできているのか』とわかるんですよ。映画史を自分で“発見”するようなイメージ。高校生の時、文化祭で映画を発表したんですが、当初の尺は1時間。1時間だとロールチェンジがあって、1回目のチェンジの時に観客が出ていってしまったんですよ。しょうがないから30分に縮めたんですが、その時に使った手法が、ゴダールと同じジャンプカット。それがぴあに入選した作品となりました。ゴダールから20年後くらいに、自分でジャンプカットを“発見”したんです」と明かしつつ、「おばけ」での“発見”に言及した。

トーク時の様子
トーク時の様子

犬童監督「この映画を見ていると、フレームイン&フレームアウトの場面は、ロベール・ブレッソンを自身で“発見”しているような――ブレッソン以外、こんなフレームイン&フレームアウトをやっている映画はないよなと思ってしまう。それは本人にしかわからないことだけどね。自分でカメラを回すしかないから、ああいう形になっていくんですかね。『なんてブレッソン的なんだ! 格好いい』と思ってしまう。すごく良い映画ですよ。彼の好きな監督は、フランソワ・トリュフォーウッディ・アレン。(テイストが)全然違いますよね(笑)」

中尾監督が気になっていたのは、犬童作品での音楽の使い方だ。「ジョゼと虎と魚たち(2003)」「メゾン・ド・ヒミコ」「ゼロの焦点」の事例を解説した犬童監督は「『おばけ』は音楽のないシーンが強い」と説いた。「映画には『音楽のないシーンが映画的に見える』というダマシがある。音楽がないせいで映画としての力があるのか、それともただ力があるように見えているだけなのか――そこには差があるんです。『おばけ』は、このバランスが優れている。音楽のないシーンに力があるおかげで、音楽がかかった瞬間がとても良い」と分析していた。

中尾監督は、今後の展望について「このスタイルでやり続けていくと思うんですが、今はそれ以外の新しい手法でも(製作を)進めています」とのこと。犬童監督に「今度は(自分が)すごく喋る映画を撮ってみたら?」と問われると、「棒読みで滑舌も悪いので、喋ったら目も当てられない……」と苦笑しっぱなし。「観客の皆さんは、今喋っている姿を見て、可能性を感じていると思うよ」(犬童監督)と再アタックされても「まぁ、あると思いますけどね。可能性は無限大なので――でも、やっぱり嫌ですね(笑)」と正直に打ち明けていた。

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