塚本晋也監督、ベネチア国際映画祭で2度目のコンペ審査員を務めて思うこと

2019年9月7日 17:00


取材に応じた塚本晋也監督
取材に応じた塚本晋也監督

[映画.com ニュース] 第76回ベネチア国際映画祭で審査員を務める塚本晋也監督が、多忙な合間をぬって、現地で映画.comのインタビューに応じた。塚本監督とベネチアの縁は深く、1998年「バレット・バレエ」の上映を皮切りに、8作品で参加。そのうち「鉄男THE BULLET MAN」(2009)、「野火」(14)、「斬、」(18)はコンペティション部門だった。

審査員体験はさらに97年のコンペティション部門にさかのぼり、その後05年にはセカンド・セクションのオリゾンティ部門でも審査員を務めている。今年は2回目のコンペ審査員であり、これは本映画祭の歴史的に見てもまれだ。

塚本監督は、「審査内容は絶対言うな、墓まで持っていくようにと言われています(笑)」と言いつつ、97年に北野武の「HANA-BI」が金獅子を受賞したときのことに触れながら、審査員体験についてこう語る。

「97年のときは、審査員長だったジェーン・カンピオンさんに、審査後『ハラキリしないですんだわね』と言われました(笑)。今年の審査員の方々はみなさん大変に熱心で、1作1作を大切に話し合っています。でも結局はそれぞれの好みに左右されるものと言えますので、時の運とも言えると思います。ひとりの人がいくら強く発言しても難しい。よほど数が集まらないと議事が白熱しないことも確かです。僕は、言葉を超えた力とか新しいものを感じるかどうかが自分の審査員としての役割と思って参加しましたが、もちろんそれだけでは申し訳ないので、ダイアローグリストももらって、毎日ハチマキを巻いているような感じでセリフを読み解いて奮闘しています。どの作品も尊敬の気持ちを持って見させていただきました。僕自身は正直言って、人が一生懸命作ったものに優劣をつけるなんて嫌なのですが、ベネチア映画祭にはこれまでとてもお世話になっていますし、声を掛けて頂けるのは光栄なことだと思い、参加させて頂きました」

今年の審査員は朝に1本、午後に2本と、だいたい日に3本のペースで映画を見ているという。自身も作り手である監督が、他の監督の作品を見て、さらにそれについて他人のディスカッションを聞いてどんな影響を受けるのか(あるいは受けないのか)、というのは気になるところだ。

「みなさんの映画の見方を通して、ああ、そういうところが気になるんだとか、そういうところがいいと思うのね、というのが人によって全然違ったりすることもあれば同じこともある。そういった意見が、意志的ではなくても、無意識に自分のなかに蓄積されて行くような気はするので、映画の見方の水準が少し上がったりするのかもしれないですね」

また映画祭といえば、ふだんは会えないような各国の映画人たちが集まる場所。ゲストにとっては、映画人同士の貴重な交流の場でもある。「僕はあまり社交的なほうじゃないですが、すごく尊敬している監督などにばったり会えたり、友達になれたりということはあります。今年の審査員メンバーのステイシー・マーティンさんは、『あなたの映画が好きです』と言ってくださいました。どの映画、というのは怖くて聞けませんでしたが(笑)。同じく審査員の、『アメリカン・サイコ』のメアリー・ハロン監督は、映画祭が始まってから、あなた『斬、』の監督だったのね。見たわよ! と言われ、急に親しくなることができました(笑)」

インタビューをおこなったホテルのラウンジでも、通りがかりのカメラマンやジャーナリストから、「ツカモト!」と声を掛けられ、あっという間に人が集まりサインや写真撮影を求められるなど、相変わらずの人気ぶりを物語っていた塚本監督。ローマ・ファンタスティック映画祭でグランプリに輝いた「鉄男」から、今年30周年を迎え、改めてその長いキャリアを振り返る節目にもなった。

またローマでグランプリを獲ったおかげで海外の映画祭に目が向き、「鉄男2」から積極的に映画祭に出向くようになったという。そんな自身の体験を踏まえて、いまの若い世代に対してアドバイスを求めると、こう語った。

「海外の映画祭についてはいいことが4つぐらいあったとして、悪いことはひとつもないと思いますから、積極的に挑戦していくのはいいと思います。自分自身、まず多くの人が見てくれるというだけで嬉しかったですし、さまざまな出会いもありました。大事なのはセールスができることですね。日本だけではなく、世界に売れるとお金が入ってくる。それは、当時自分はまったく期待していなかったことなので、棚からぼたもちのようで、結果的にそれが(映画を撮り続ける上で)とても助けになったと思います」

今年の受賞者は果たして彼の意見をどの程度反映するのか、ということはさておき、海外の現場を長く体験してきた塚本監督ならではの言葉から、映画人が学べることは多いに違いない。(佐藤久理子)

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