映画監督・内田英治が深夜ドラマ「Iターン」&配信ドラマ「全裸監督」を手がけて生じた思いとは?

2019年7月23日 10:00


内田英治監督
内田英治監督

[映画.com ニュース] 「グレイトフルデッド」「下衆の愛」「獣道」「家族マニュアル」などで知られる内田英治監督が、活躍の幅を大きく広げている。テレビ東京系の深夜ドラマ枠で「Iターン」(ムロツヨシ&古田新太主演)の監督・脚本を全話手がけているほか、Netflix制作の話題作「全裸監督」(山田孝之主演、武正晴総監督)でも監督・脚本を担当。そんな内田氏に、映画監督ならではの視点で民放ドラマ、配信ドラマについて語ってもらった。

ブラジル・リオデジャネイロ生まれ、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」でのAD、「週刊プレイボーイ」での記者経験など、内田氏のプロフィールには興味深いワードが並ぶ。映画監督としては、2004年の「ガチャポン」以降、着実にキャリアを構築。今年の「ええじゃないか とよはし映画祭2019」でプレミア上映作品として製作された「家族マニュアル」(平田満主演)は、6月に韓国の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭で上映されたばかりだ。

--映画、民放ドラマ(「Iターン」)、配信ドラマ(「全裸監督」)と縦横無尽に駆け巡ってみて、実際の肌感覚として一番の違いはどこにあると思いますか?

違和感です。違和感を覚えるストーリーや演出を許容するのが、テレ東ドラマ24やNetflixかと。それは自分が普段やっているインディーズ映画とも重なります。監督ないし脚本家の独自の視点が、ゴリゴリに入っている作品。違和感はマスには受けませんが、一部には熱狂的に受け入れられる可能性がある。一方、昔言われたことがあるのですが、多くの視聴者を満足させなければならない媒体は「子どもにも分かる、おばあちゃんにも分かるストーリー」が必要で、誰もが共感するストーリーが重要視されます。誰もが共感する映画をやりたくない人がインディーズに走るわけですから、テレ東や海外の配信会社と相性がいいはずです。

--映画だからこそ出来ること、映画でしか出来ないことがあると思いますが、一方で内田監督だからこそドラマに取り入れることが出来た要素もあるのではないでしょうか。「Iターン」「全裸監督」で得た気づきとは?

映画ではやらず、ドラマでこそやれたこと。効果音と音楽を使いまくりました(笑)。映画だと余計な効果音はまず使いませんが、ドラマですと「シュッ」とか「バン!」とか、使いまくって楽しかった。映画だと感情を音に乗せないよう出来るだけ使わないよう心がけていますが、ドラマは何話もあるのでどんどん使いましたね。「全裸監督」では高くてまず使えないような世界的名曲をたくさん使えた。「Iターン」でも「初恋」を全編で使用しました。好きな曲を使えるのはもう本当に楽しいですね!

「全裸監督」では、「こういうことがやりたい」というオーダーはほぼほぼ通りました(笑)。配信なので地上波の自主規制がないのと、資金が潤沢なのでいい意味でクリエイティブの無法地帯と化していました。これはできない、あれもできない中で知恵を絞るのが通常ですが、「全裸監督」に関しては僕が好きなシュールでブラックな表現、大掛かりなアクションを組み合わせるようなことが出来た。

逆に「Iターン」は深夜なんでお金はありません。派手さは抑え、時事的なストーリーラインをあえてたくさんストーリーに組み込んでみました。僕は雑誌をやっていたんですが、ドラマは雑誌だと思うのです。時事的なネタを必要とする。「Iターン」に出てくるヤクザは二極化しており、お金持ちの竜崎組と、貧乏な岩切組。そして、コンプライアンスや働き方改革の中でもがく社畜の主人公。古き良き昭和への懐古。令和の時代を生きる我々が抱える問題を、阿修羅市という架空の街に詰め込みました。

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--アメリカのクリエイターたちが口にしている、「Netflixは製作には予算を惜しまない」というのは本当でしたか?

日本基準の予算よりも大幅にかかっていることは体感で分かります。ロケハンなどの現場で、これもやりたい、あれもやりたいと、言いたい放題言っても、ほとんどが許容されました。1980年代を再現するため、セットや小道具などに莫大なお金がかり、さらに音楽などの背景にもかなりの予算が割かれたと思います。(Netflix版)「火花」は見ておりませんが、体感として日本では最大級の予算が使われたのではないでしょうか。これが日本において日常化していけば、日本の映像産業は大きく変わるはずです。おバカな笑えるシーンで「クレーンだ!」と普通に使える。こんな金のかかった遊びが作品にも影響したと思います。

--テレビ東京からは「好きにやってください」と言われたそうですが、実際のところ好きにやらせてくれましたか?また監督、脚本を全話手がけたことで見えてきた同枠の課題は?

本当に好きにやらせていただきました。ギリギリの表現もあったのですが、プロデュースサイドでいけるかどうかの判断をきちんとやってくれたんだと思います。また、課題といいますか、今後、求められるであろうと感じるのは、やはりキャスティングです。以前のドラマ24は、スターがいなくても面白いものを作ればよかったのだと思うのですが、今は面白い題材があり、それを面白がってくれる「普段深夜枠に出ない役者さん」を狙う傾向は益々強くなる気がします。売れている役者を出すために、攻めた作品を考えようとすると、それはそれで方向性がおかしくなると思うので、課題といえば課題だと思います。そして個人的な感想ですが、いわゆるテレビで活躍されている役者はベースの実力が高い人が多い。そして面白い表現に飢えていて、映画人との相性がとてもいいんじゃないかと思いました。

--「Iターン」「全裸監督」を経たいま、新作に肉付けとなるような収穫があるとしたら、どんなことでした?

とりあえずエログロ&バイオレンスをしばらく卒業します(笑)。「Iターン」「全裸監督」と、エロやヤクザなどが絡んだ作品のイメージが強くなってきた気がします。でも、意外にエロもバイオレンスも少ないんです、多分。そして今回2作品をやってみて、娯楽映画に対する興味が高くなってきました。個性的であったり、作家性であったり、今までそういうものをすごく意識していましたが、今回の体験で徹底的なエンタテインメントもいいんじゃないかなと思考が少し変わりました。オリジナル作品で、娯楽で、作家性も強い。アメリカ型の中バジェットインディーズ映画をやはり、やりたいと感じました。

--民放・配信のドラマを手がけてみて感じた、映画業界へのアンチテーゼは?

僕はインディーズ映画が好きで、インディーズがもっと大きい形で広がって欲しいと願っています。その思いから考えると、やはり個性を求めるテレ東深夜、海外配信ドラマとの相性はすごくいいと思います。ただ、その壁は大きいとは思います。やはり「監督は誰でもいい」という企画が多いので、演出家としてじっくりクリエイティブに関われる場を作れたらと思います。「この人はこうだからこの映画を作るんだ」と。いい原作といいキャストがいれば、「監督は誰でもいい、とりあえず有名な人にしとけ」が悲しい現実だと思います。若い人がやるべき映画を、僕も含めてベテラン勢が独占しているのも健全ではないなとは思います。でも感性をもって企画に携わるには、やはりクリエイティブの手腕を上げねばと、いつも考えて反省してしまいます。

--映画監督・内田英治として撮りたい題材はたくさんあると思いますが、どのようなテーマに着手してみたいですか?

撮りたい映画たくさんあるんです。次作はもう本当に今までとは180度違う映画で、人間の本質的な愛情を描いています。今までは人が持つ裏側の感情を描くのが好きでしたが、逆に表側の優しい感情を描きたいと思うようになってきました。あと、やはり海外で撮りたいです。短編をニューヨークとロサンゼルスで1本ずつ撮り、長編への準備をしてきましたが、そろそろ長編にチャレンジしたいです。「海外へ出る」という言葉は日本映画界では合言葉のように出ますが、実際の出方は誰にも分からない。探りながらでもいいから、やりたい。そしてやはり、企画から携わる作品を続けたいですね。呼ばれるのを待つのではなく、企画からどんどん絡んでいく。海外の監督たちが持っているスタイルをよい意味で真似していきたいです。

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