前代未聞の対立劇演じた熱海国際映画祭へ行ってきた 審査員・桃井かおり“置き石”レッドカーペットにも笑顔

2019年7月1日 12:00

“置き石”レッドカーペットにも柔軟な 姿勢を見せた桃井かおり(右)
“置き石”レッドカーペットにも柔軟な 姿勢を見せた桃井かおり(右)

[映画.com ニュース] 昨年6月に第1回が開催され、「熱海を日本のハリウッドに」とまで期待された「熱海国際映画祭」(6月28日~7月1日)。第2回開催の約1カ月前に約1460万円の赤字が判明したことから、熱海市長と運営会社が対立し、「やる」「やらない」の迷走を繰り広げた。こんな稀にみるドタバタ劇の末に開幕された映画祭を、28、29日の両日、見てきた。(文・平辻哲也)

国際映画祭は本来、町を挙げての一大イベントだったはず。しかし、駅前にはポスターの1枚もない。「第2回熱海国際映画祭」は運営母体の「映画祭実行委員会」が分裂し、熱海市としては一切手を引いたからなのだろう。会場までタクシーに乗ったが、運転手も「聞いたことはあるけれど……」といったレベル。映画祭は本当にやっているのだろうか、と不安になってしまった。

午後5時前に、レッドカーペット&セレモニーの会場「熱海起雲閣」に到着。玄関前には在京キー局のワイドショーをはじめ20人以上の報道陣がズラリと並んでいる。しかし、レッドカーペットイベントには恒例のファンの姿はない。というか、肝心のカーペットさえ敷かれていない。すると、スタッフ2人が慌てて準備に取り掛かる。海に面した熱海は風も強い。カーペットがめくれ上がると、スタッフは慌てて、その辺に転がっているような石で留め置いた。

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世界三大映画祭をはじめ、大小さまざまな映画祭を見てきたが、初めての光景だった。そんな中、事務局のスタッフが「もうすぐ(審査員の)桃井かおりさんが到着するので」と告げる。桃井かおりといえば、「SAYURI」(05)出演を機にハリウッドに進出した日本を代表する女優のひとり。そんな彼女が、置き石された、今にもめくれそうなカーペットの上を歩くのか。信じがたい。

それでも、ドレスアップした桃井は現れた。しかも、ほかの審査員2人と肩を組んで楽しげにだ。実は今回の取材は、桃井が審査員を務めると聞いて、急きょ決めた。ロシア映画「太陽」(05)以降、親交があり、しばらく会っていなかったので、話をしたかった。前日夜に「熱海に行くので、お会いできることを楽しみにしています。それにしても、大変な映画祭を引き受けましたね」とショートメールを送ると、開幕当日の朝、本人から電話がかかってきた。映画祭のゴタゴタはまったく知らなかったという。

サッカーの「無観客試合」のような寂しい開幕となってしまったが、それでも、桃井は言った。「とにかく開催されて、本当に良かったなと思っています。若いクリエイターたちには、映画祭は大事な存在です。映画祭がないと、なかなかチャンスをつかめないので。映画祭はお金がなくて、どこも大変なんですよ。だから、あんまりびっくりしない。ベルリンに呼ばれた時も、飛行機代も出してもらえなかったです」。

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桃井は「無花果の顔」(06)で長編映画監督デビューし、「火 HEE」(16)ではベルリン国際映画祭に出品。クリエイターとしての桃井は低予算映画の苦労も知っている。だからこそ、映画祭の役割を分かっているのだ。映画祭とは、新たな才能の発掘の場、出会いの場である。この審査員を受けたのも、映画祭などのつながりで、声をかけられたのだという。自分と同じように苦労している若手をサポートしたいという一心だったのだろう。

桃井のいうように、「映画祭が開催できて、よかった」とは言える。このまま映画祭がなかったら、世界約1300本から選ばれたという入選作32本は日の目を見ることはない。映画は長編2本と1本の短編しか見る時間はなかったが、その中の1本「ひとくず」(上西雄大監督)は好きな作品だった。監督によれば、いろんな映画祭にチャレンジして、掴んだチャンスだったという。

それだけに、いい環境で上映することはできなかったのか。プログラムが発表されたのは開幕の1週間前、ホームページ上のこと。しかも作品紹介は一切なく、監督、出演者が来るのかも分からない。これで、「世界約1300本から選ばれし良作です」と言われても、普通の人は遠方から熱海まで行く気にはなれないだろう。上映環境もいまいち。映写機の出力不足なのか、暗いシーンでは細部まで表現できていなかった。また、短編は英語字幕なしのバックアップDVDでの上映。これを「国際映画祭」と呼ぶのは、厳しすぎる。

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昨年の映画祭のボランティアスタッフを務めたという人は「昨年の映画祭で立て替えた分が未払いのままです。それでも、熱海を盛り上げたいという思いで、今年もボランティアとして関わり、人集めもしましたが、結局、ボランティアチームは解散しました。本当に残念な思いでいっぱいです。この熱海の人々の思いを届けてほしいんです」と話してくれた。一方で、今回の映画祭に力を貸した人もいる。ゲストハウス&カフェバー「ennova(エンノバ)」の経営者だ。「映画祭に問題があっても、作品には罪はない。熱海で上映を待っている人のためにカフェバーを上映会場として無償提供したい」と自ら映画祭事務局に連絡し、ここで24本の短編が上映された。

桃井もこんなことを言っていた。「1日早く熱海に来て、町をぶらぶら歩いて、3軒ぐらい飲み歩いたけれど、熱海は料理が美味しいし、人もいい。素敵なところだから、ここに人が集まるのはいいと思います」。私も短い間だったけれども、食に触れ、人と話し、同じような思いを持った。熱海にはポテンシャルがある。

今回の問題はこのままでいけば、訴訟問題にまで発展する勢いだ。それにしても、こんなになる前に、何か打つ手はなかったのか。みんなが熱い思いを持っているだけに残念すぎる。その責任の所在はどこにあるのか。きちんと解明し、その上で、「熱海国際映画祭」をゼロからスタートさせることはできないのだろうか。

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桃井かおりの「無花果の顔」以来となる長編監督第2作。放火を犯した娼婦が精神科医との対話を通じて、生涯を独白する芥川賞作家・中村文則による短編小説「火」を桃井の脚本、主演により映画化。

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