「アリー」で大躍進!“監督”ブラッドリー・クーパーを作った映画たち

2018年12月21日 11:00


監督としての“信条”も教えてくれた
監督としての“信条”も教えてくれた

[映画.com ニュース] 2019年に行われる第91回アカデミー賞の目玉作品のひとつとして注目を浴びている「アリー スター誕生」(公開中)。長編映画初監督のブラッドリー・クーパーと、本格主演は初となる歌姫レディー・ガガという組み合わせながら世界中の批評家と観客から絶賛を浴び、ゴールデングローブ賞で5部門候補、全米俳優組合賞で最多4ノミネートなど旋風を巻き起こしている。

そんななか、本作で監督・主演を務めたクーパーが来日。最高の形で監督としての初陣を飾ったクーパーは、俳優からどのようにして“映画監督”になったのか? そして、本作の躍進の秘密はどこにあるのか。詳しく話を聞いた。

歌手を夢見るアリー(ガガ)が、世界的歌手ジャクソン(クーパー)と運命の出会いを果たし、“スター”として成熟していくさまを圧巻のライブシーンと共に描いた本作。だがドラマ部分に目を向けると、非常に“締まった”演出が印象的だ。初メガホンながら、すでに大御所監督のような風格を漂わせているクーパーの演出術は、どうやって構築されたものなのか。お気に入りの監督を挙げながら、自己分析してもらった。

「僕の敬愛する作品や監督たちにはひとつ共通点があって、『機能に形態(フォルム)が付いてくる』ということなんだ。つまり、すべての“機能”が、物語の中で役割を与えられているということ。自分の好きな監督は、ストーリーと関係のないシーンを絶対に作ったりしない。すべてのショットに“意味”がちゃんとあり、ただの画ではなく物語の中で機能している。そういう監督が好きなんだよ」と語りだしたクーパー。「例えばリン・ラムジージョナサン・グレイザー、初期のトマス・ビンターベア。彼の『セレブレーション』は、ニューヨークの劇場で1日に4回も見たくらいハマってしまった。これを言うと、当時の僕がどんな生活を送っていたかがよくわかるよね(笑)。後は、もちろんマーティン・スコセッシポール・トーマス・アンダーソン、そして“王者”スタンリー・キューブリックだ」と名だたる映画監督たちをすらすら挙げ、微笑んでみせる。

「でも、彼らの作品は見ているときに『うまいなあ!』と思うことはないんだ。見ているときは、気持ちにグッと響くものがあって、後から考えると『なるほど、ああいう風に撮っていたのか』と思える。そういう監督たちばかりだね。彼らの作品に加えて、自分が今まで見たすべての映画、現場に入ったすべての映画が自分を形作っていると思う。僕を感動させ、世界の見方を変えてくれた作品はたくさんあったけど……、そうだな、ひとつ挙げるとするなら、スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』。自分も物語の舞台であるフィラデルフィア育ちで、人種間の関係というのはある程度理解していたつもりだったんだけど、あの作品を見て『自分はこんなに理解していなかったのか!』と衝撃を受けたんだ」と振り返ったクーパー。よどみない話しぶりから、シネフィルであることのみならず、監督としてのビジョンが確立されていることがうかがえる。

演出面に話が及ぶと、クーパーはぐっと目を見開き「僕が大切にしていることは、自分がつづろうとしている物語が何なのか、自分自身が分かっていなければならないということ。それを、いかに映画的にダイナミックに表現するのか、考えなければならないということだ。今回も、決して諦めず考え続けて『どうやったらこのアイデアをより昇華することができるのだろうか?』と追求し続けたし、どうやったら“本物”に近づけるのか、考え続けたよ。作品づくりで重要なのは、いかに『真実に近づけるか』なんだ」と熱く訴える。

クーパーがインタビュー中に繰り返したのは、「真実」という言葉。本作が世界中から支持されている“理由”も、そこにあるのではないかと考えているそう。「それぞれの役者の“人生の真実”からキャラクターを作り上げることを目指しているんだ。ストーリーテリングにおいて真実をとらえることができれば、映画というメディアは普遍的に人々の心に響いていくと思う。“真実”を感じられる作品であれば、我々はみな同じ人間だし、それぞれの心に、“感覚”として伝わっていくと考えているんだ」。

「今回の作品も、すべてのキャラクターを自分にとってリアルな場所から作り上げたいと思い、共演者たちにもそのようにお願いしたよ。キャスティングする時点からこういった考え方だったから、たとえば(ジャクソンの親友を演じた)デイブ・チャペルは彼自身の経験を役に反映させているし、ステファニー(ガガの本名)もそうだね。彼女を作り上げている美しいさまざまな側面、温かみや優しさをちゃんとキャラクターに注入できれば、素晴らしい作品になると確信した。そして、共同脚本のエリック・ロスと、ステファニーに会った後、彼女の能力や才能をすべて活用できるようなキャラクターになるように、アップデートさせていったんだ」とキャラクター造形の舞台裏を明かしたクーパー。つまり、このキャストでなければできない役であり、必然性が映画のリアリティを生み出すということ。

中でも、自身の生きざままでも注ぎ込み、一世一代の名演を見せたガガを「撮影前に2カ月間リハーサルを行ったけれど、ここまでの演技をできたのは何より彼女自身の力の証だよね」と称え、「レディー・ガガとして成功したのは、当然ながら運だけじゃない。あれだけの地位にいる人が、あれだけ努力をしているんだということを目の当たりにし、僕の中にも新たにインスピレーションが生まれたんだ」と感謝を述べる。

アメリカン・スナイパー」で演技派俳優としての地位を確固たるものとし、本作で監督としての技量を見せつけたクーパーの未来は前途洋洋だ。だが本人は、あくまで謙虚な姿勢を崩さない。「今回学んだのは、『重ねた努力だけが、形になる』ということ。そして自分の本能に従うことの大切さだね」と“名言”を残し、インタビュールームを後にした。

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