引きこもりヒロインを全身で体現した趣里、かつてバレエ断念した自身と役を重ねる

2018年11月11日 11:00

笑顔で取材に応じた趣里
笑顔で取材に応じた趣里

[映画.com ニュース] 女優の趣里が、主演映画「生きてるだけで、愛。」 (監督・関根光才)で、鬱の引きこもりのヒロイン、寧子を鮮烈に演じている。劇作家・小説家の本谷有希子氏による同名小説の映画化。今年の映画賞で主演女優賞の有力候補に名前が上がるのは確実だ。10代の時、けがでバレエを断念し、21歳の時に女優としてデビューした趣里。ひどく塞ぎ込んだ時期もあったそうで、「過去の自分、今持っている自分の揺れ動く感情がすごくピタッとくるものがありました」と語る。

趣里が演じたのは、鬱による過眠症のせいで、引きこもり状態の寧子。雑誌社で、不本意ながらゴシップ記事を書いている津奈木(菅田将暉)と同棲生活を送っている。寧子は時折、自分自身すらコントロールすることができず、声を荒らげたり、突拍子もない行動に出てしまう。恋人の支えで、どうにか毎日をやり過ごす日々。やがて、カフェバーで働き出すようになるが…。これまでも「リバース」(2017)での狂気をはらんだ妻役、「ブラックペアン」(18)でのクールな看護師役などドラマで確かな演技力を見せているが、本作は映画の代表作になった。

もともと、小説を読んだり、舞台を観劇するなど本谷作品のファン。脚本を読んで、寧子を演じたいと強く思った。「生身の姿をむき出しにする寧子がほっておけず、とても愛おしかったんです。過去の自分、今持っている自分の揺れ動く感情がすごくピタッとくるものがありました。今だったらすごくやる意味があると思い、寧子を演じることができるんじゃないかなと思いました」と語る。

過去の自分とは、バレエで挫折した時の姿だった。4歳の時からクラシックバレエを習い始め、15歳の時に本場イギリスのバレエ学校に通うことができたものの、留学中に大きなけがを負い、帰国を余儀なくされたのだ。

「将来、描いたものが一瞬にして崩れ去って、どうやって生きていいか、分からなくなったんです。もうバレエは続けられないと絶望していました。いま思うと、私も(寧子のように)寝ていましたね。それでも、普通に時間は前に進んでやってくるわけで……。こんなに長く時間を感じたことないなっていう感覚でした。あまり覚えてないぐらいの感じだったんです。分かっているけど、前に行きづらい、逃げたい。自分がイヤだった。無理だと思うけど、この気持ちを誰かにわかってほしい。私と向き合ってほしい……、そんな気持ちでした」

だから、少しエキセントリックなところがある寧子にも愛を感じた。「こんな人と暮らすのはイヤですけど、すごく魅力的に見えたんです。しかも、寧子は、止められない自分を絶対どこか分かっているんだと思います。(言いたいことをストレートに言う)寧子に、羨ましさもあったんですかね。見届けてあげたいなと思いました」

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劇中には踊るシーンがあるが、今もバレエには未練があるという。「けがをしていなかったら、バレエの道に進んでいたと思います。今でもバレエを見ると、やりたかったという思いがすごくあります。(けがした当初は)頑張って、海外は駄目でも、日本でもやろうかなと思っていました。ただ、体が一番正直で、難しいと思いました。そんな時、同年代のみんなはどうしてるんだろう? と周りを見ると、大学に進学する人が多かったんです。だから大学に行かなきゃと思い、大学受験のための高卒認定を取りました。でも、その期間もずっと悩んでいるんです。これでいいのかな? と」

寧子は次第に外界に触れることで心境が変化していくが、趣里自身はどうやって、塞ぎ込む自分を乗り越えたのか。「本当に好きなものがなくなってしまって、やりたいこともない。でもそんな中、舞台を見に行ったんです。『すごいな』って思いました。だんだんバレエ以外の友達、予備校の友達もできて、外の世界を見始める事が出来たんです」

「では、寧子と同じような経験を辿ったんですね」というと、「ホントそうですね! 一緒ですね。今日、発見しました!外の空気に触れて、いいんだ、こういう生き方もあるんだと思いました」と笑顔を見せる。

役作りでは、寧子のことをひたすら考えた。「必然と自分と向き合うことになりました。特に、感情の上がり下がりですね。鬱の症状のことは考えずに、自分はこういう感情があったな、ここはどう考えているんだろう? とか。若い子はよく、『マジ、鬱』みたいに言いますよね。本谷さんは小説の中で、『寧子は完全なる躁鬱ではなくて、半分、冗談みたいなもの』というようなことをおっしゃっています。(実際は)それよりは重いですよね、多分。そんなことを考えながらも、現場に入る時は一旦忘れることにしました」

劇中では、寧子を全身全霊で演じきった。街中を走り回ったり、全裸になるシーンもある。「(裸には)抵抗はなかったです。脚本を読んだら、必要なことというか、なるほど、そうするんだなと思いました。着ていても、脱いでも、見抜かれている気がする。だから、身も心も裸になるんだ。(気にならないのは)バレエをやっていたせいもあるのかな。周りはすごく気にしてくれているんです。お風呂場のシーンでは(画面では全裸までは)見えていないけれども、助監督さんは『(見ないように)こうしているんで』とか言ってくださったのですが、いや、いいですよ、どうせ最後は全部脱ぐし、と思っていました」と笑う。

クライマックスシーンは厳寒での撮影だった。16ミリフィルムで撮影した生々しい画面からは息遣いまでうかがえる。「40年ぶりの大寒波が来ている時でした。実際、寒かったですけど、スタッフのみなさんがすごくケアしてくださったので、頑張ろうって思えました。いろんなことがエネルギーをくれた感じですね。ラストシーンは直前の屋上シーンよりもっと前に撮影したのですが、監督も脚本のセリフをもう一度考えてくださって、余計な動きを全部削ぎ落としました。だから、すごく素敵なシーンが撮れたんだと思います。私ひとりでもそういう感覚を味わえましたし、カメラマンさんをはじめ、スタッフさんとも繋がれたような気がしました」

映画は人生に絶望するヒロインの再起、恋人と心を通じ会えた濃厚な時間を描く。「ほんの一瞬だけでも分かり合えたら、っていうのはすごく素敵ですよね。人との関係って、男女問わず、一瞬だけも分かり合えてないまま終わってく方が多いですもんね」。だからこそ、他人や社会と繋がりたい。そんな思いが女優業の原動力の一つになっているのだろう。「私自身、エンタテインメントに人生を救われました。エンタテインメントは人生の中に必要だと思います。だから、今、お芝居をやっています」と話してくれた。

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