キルギス映画「馬を放つ」公開 監督が作品と現地の映画事情を語る

2018年3月16日 18:00


アクタン・アリム・クバト監督
アクタン・アリム・クバト監督

[映画.com ニュース] キルギスの映画「馬を放つ」が3月17日公開する。ひとりの純粋な男の姿を通し、美しい大自然や古くからの風習を映しながら、文化的アイデンティティが失われつつある現代社会に問いを投げかける。監督・主演を兼ねた名匠アクタン・アリム・クバトが来日し、作品や現地の映画事情を語った。

村人たちから「ケンタウロス」と呼ばれる寡黙な男は、妻と息子と3人で慎ましい生活を送っている。騎馬遊牧民を先祖に持つキルギスに古くから伝わる伝説を信じる彼は、人々を結びつけてきた信仰が薄れつつあることを感じ、夜な夜な馬を盗んでは野に解き放っていた。ある日、馬を盗まれた権力者が、犯人を捕まえるべく罠を仕掛ける。

--前作「明りを灯す人」に続き、今作でもご自身が主人公を演じています。熱い信念を秘めたケンタウロスというキャラクターについて教えてください。

「おそらく私が映画俳優ではないからこそ、こういった生き生きとしたキャラクターになりきれたのです。要するに、演技ではないのです。演じることも出来ないし、演技を習ったこともありません。単にスクリーンの中で、生きるだけのことしか考えていません。私の映画は、すべて創作ではなく、何かの形で自分自身の体験にかかわりのある、自伝のようなストーリーなのです。だからこそ、いきいきとした主人公が生まれるのではないでしょうか」

--それでは、映画ごとの主人公は監督自身がこうありたい、という願望が投影された人物なのでしょうか?

「おそらく、自分だけではなく、観客もそうありたいという希望を持つような人物を描こうとしています。アーティストたちはみな同じだと思いますが、おそらく、自分よりもっと良い人間を周りの人間に伝えたいと思うのです。また、私の作品に出てくるのは、ヒーローではなく一般市民だけです。それは私の映画の特徴でもあると思います」

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--キルギスの村の人たちは、今でも馬に乗ったり、民間信仰に頼ったりという生活を今もしているのですか? この作品から、キルギス語と話す人とロシア語を話す人がいること、異なる宗教を信じる人が共存する国だということがわかります。

「地方によって、特色はありますが、大体のキルギスの田舎の人たちはあのような暮らしをしています。私の映画の狙いはあくまでも事実に従うことです。しかし、同時に、まったくドキュメンタリーの様に事実を描くと面白くないのです。ですから私は、いくつかの事実を混ぜて、ひとつの見本として描き、一般市民の問題を語りたいのです。外国で理解してもらうために映画を作るのではなく、私自身のために作っていますが、日本の方に理解していただけることはとてもうれしいです」

--キルギスの映画事情、監督が映画界に入られたきっかけを教えてください。

「旧ソ連時代には、各共和国に映画製作所がありました。キルギスにも大きな製作所が残っていて、昔からキルギス映画は人気がありましたが、今は、ハリウッド映画の力が圧倒的ですね。もちろん、ロシア映画もあります。残念ながらアンドレイ・タルコフスキーが残したような素晴らしい映画は少なくなっていますが。一方で、アメリカの真似をしたような、より質の悪いエンタテインメントが増えています。また、キルギス映画の力も強くなってきました。デジタルカメラのおかげで、キルギス映画の数はどんどん増えていますし、多いときには年100本ほど作られます」

「子供の頃から絵が上手だったので、自分でも周りにも絵描きになると思われていました。美術学校を卒業して、生活のために映画製作所の美術の仕事を始めたのです。10年間美術スタッフとして働いて、最終的には美術監督になりました。同時に、当時の映画の作り方に疑問を抱いていました。ソ連から来ていた監督たちは、映画の文法を語ることができていないのではと思ったのです。彼らの野望は大きいのですが、映画監督ごっこをしているような感じでした。当時の監督たちは語るべきものを持ってはおらず、映画が単なる職業、単なる仕事に過ぎなかったんです。ですから、本当に良い映画はどういうものかわからないけれど、彼らがやっていることが違うということはわかったので、私がやってみようと思ったのです。第1作が広く受け入れられたので、現在に至ります。私は、自分の考え方や意見がない限り、映画を作るのは無理だと思っています。人間は問題意識や悩みがないと話は出来ないもの。私は、すべての人間の共通の問題について語りたいと思ったときに映画を作れば良いと思うのです」

馬を放つ」は、3月17日から岩波ホールほか全国順次公開。

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ソ連からの独立を経て、昔ながらの生活習慣が残るキルギスの田舎町を舞台に、政治的革命に翻弄されながらもつつましく生きる人々の姿を描く。

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