坂本龍一、ベルリン映画祭でパフォーマンス披露 ベンダースとは小津安二郎語る

2018年2月27日 19:30


「東京暮色」を紹介した坂本龍一とビム・ベンダース
「東京暮色」を紹介した坂本龍一とビム・ベンダース

[映画.com ニュース]第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門の審査員を務めた坂本龍一が、同映画祭の併設部門「タレント」(旧タレント・キャンパス)で、ベルリン在住の現代アーティストで音楽家のカールステン・ニコライ(別名、アルバ・ノト)と、2月22日に音楽パフォーマンスを披露した。

これまで何度もコラボレーションを果たしているふたりだが、お互いにあらかじめ頭で考えるのではなく、その場で生まれるクリエイティビティを大切にしたいと考えるだけに、打ち合わせは一切なしだったという。「ただピアノを弾くことに飽きてしまった」と語る坂本はこの日、鉄製の火箸、ギターストリングス、アルミフォイルといったユニークなツールを用いてピアノの弦を響かせることが多く、その特殊な音色がニコライのアンビエントな響きと融合し、実験的でどこにもない和音を生み出した。

ベルリンという環境について坂本は、「アカデミックな文化もある一方、世界中から若いアーティストが集まり、多国籍的でフェスティブな雰囲気がある。ドイツの現代音楽ではありとあらゆることがやり尽くされているから、一般の観客でも新しいことを鑑賞することに慣れている。規制概念を壊すようなことに対してすごくオープンだと思います」と語ってくれた。その言葉通り、およそ30分の演奏に聞き入っていた観客は、終演後満場の熱気ある拍手で迎えた。

一方、今回の映画祭で審査員を引き受けた理由について尋ねると、「映画祭はふだん会えない人、これまでファンだったけれど実際には会ったことがなかった人に会えるような機会でもありますが、やはり純粋に一度にたくさんの映画が見られるという楽しみがあります」と語り、映画愛好家ぶりを伺わせた。

また2月17日には、彼がもっとも敬愛する監督である小津安二郎の、「東京暮色」4K修復版がクラシック部門で上映される際のプレゼンテーションを、同じく小津を師匠と仰ぐビム・ベンダースとともに務めた。ベンダースと彼が実際に言葉を交わしたのは、意外にも今回が初めてだという。

まずベンダースが口火を切り、本作の撮影監督、厚田雄春に会ったエピソードを披露。「1983年、東京で彼をインタビューしたとき(ベンタース監督作「東京画」)、最後に彼は、小津監督にあまりにも尽くしたので監督亡き後、他の監督と仕事をしたものの難しいと悟り、引退した、と話してくれました。厚田さんはそう言いながら涙を流し、通訳の方も泣き、わたしも泣きました。同じ日に、偶然にも「戦場のメリークリスマス」のプレミアが東京であり、わたしも参加しました。ある男性の2列後ろに座っていたのですが、わたしはシャイなので言葉を掛けませんでした。その男性がここにいる坂本龍一さんです」と語った。これを受けた坂本は、かつて作曲家の武満徹と小津映画の音楽をふたりで新しく作曲しようと話し合っていたものの結局実現しなかった逸話を明かし、「今はそれで良かったと思っています。小津作品の音楽は綿密に計算され、意識的に伝統に沿ったようにできているのだと思います」と、あらためて振り返った。

ドキュメンタリー部門にも力を入れているベルリン映画祭ではさらに、スティーブン・ノムラ・シブルによるドキュメンタリー「Ryuichi Sakamoto: CODA」と、坂本が昨年4月にニューヨーク・パーク・アベニュー・アーモリーで開催したコンサートを収録した「坂本龍一PERFORMANCE IN NEW YORK: async」も上映された。後者は坂本のパフォーマンスを完全収録するために、4Kのカメラ8台を同時に回す贅沢な試み。またアンドレイ・タルコフスキーの架空の映画音楽を作曲するという坂本のコンセプトに併せてコンサートで流した映像をインサートしたり、坂本が作曲したベルナルド・ベルトルッチの「シェルタリング・スカイ」の原作者、ポール・ボウルズの詩を起用するなど、単なるコンサートの収録とはひと味異なる工夫がされ、アーティスティックで見応えのあるものに仕上がっている。

現地ではそれぞれのイベントが毎回満席となり、どこに行っても熱心なファンに囲まれるなど、相変わらず世界のサカモト人気を印象づけられた。(佐藤久理子)

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1983年4月に東京でのドイツ映画祭のために来日したヴィム・ヴェンダース監督が、彼の東京を探しさまよう。彼の敬愛する小津安二郎監督へのオマージュを綴ったドキュメンタリー映画。

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