“規格”のない映画人・杉野希妃、青木崇高と作り上げた「雪女」は「目に見えないものの代弁者」

2017年3月5日 11:00


「雪女」を語った杉野希妃と青木崇高
「雪女」を語った杉野希妃と青木崇高

[映画.com ニュース] 監督・女優として注目を集める杉野希妃と、シリアスな役からコミカルな役まで自在に演じ分けるカメレオン俳優・青木崇高が、小泉八雲の「怪談」に記された一編を映画化した「雪女」でコラボレーションを果たした。2人の今作にかける思いは熱く、杉野は「やっぱりどうしてもやりたい役、監督したい作品はある」と、正直な言葉で監督と女優の境目をかき消していく。

映画は、はかなさが漂う美女ユキへと人間化した雪女(杉野2役)と、ユキの夫として葛藤する猟師の巳之吉(青木)の切なくも美しい物語。第29回東京国際映画祭コンペティション部門で公式上映され、クラシカルな美学・伝統を現代で生かそうとする試みが高い評価を得た。

欲動」「マンガ肉と僕」に続き、監督第3作として「雪女」を題材に選んだ杉野は、「現代社会を見ているともどかしい部分がすごくある」と眉をひそめる。

「強い者が強く言うことが通ってしまう世の中になってきている。物事の本質ってそこではないというか、もっと目に見えないものにこそ真実があったりすると思っているんです。雪女という存在は、目に見えないものの代弁者のような存在なんじゃないかなという視点をもって映画化したつもりです」

青木は、演じた巳之吉は「実直で真面目な青年。家族や周りの人間に対して愛情を感じて、愛情を注ぎ合っている人」で、妻のユキと過去に見た怖ろしい雪女が同一の存在であることを「なんとなく気が付いている」と説明する。「今幸せで子どもがいるということが、彼にとっては圧倒的だった。だからユキが雪女であったとしても、それが自分たちの生活以上に優先されることではなかったんじゃないかなと思いました」

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杉野と青木は、プライベートで訪れた2015年の釜山国際映画祭で偶然会ったことから意気投合。以前から知り合いではあったものの、韓国で「熱く語り合った」(杉野)ことがきっかけとして、今作での共演につながった。

青木は、「映画界にどんどん切り込んでいく杉野希妃さんと仕事がしたかった。決して大きいバジェットではないのですが、杉野監督なら着眼点やアイデア、テーマで勝負して、面白いところにいけるんじゃないかと思いました」と全幅の信頼を寄せる。

さらに、監督と女優を兼ねる杉野を「タフですよ! 心からすごいなと思う」と絶賛し、「欲張りだなと(笑)。主演だけでも魅力的なのに、撮る側にも回りたいっていう。僕もそういう現場、初めてだったんです。カットをかけてスッと雪女の格好のままモニターチェックしているのを見ていると、面白い(笑)」と撮影時を述壊する。

あふれんばかりのバイタリティを見せる杉野に、青木が「(女優と監督の)どっちかひとつなら? とかよく聞かれない?」と聞くと、杉野は「聞かれますね。そんな愚問! って思います(笑)」と即答。「どっちもやりたいからやっていて、作品によって、役者として出てみたいものはもちろんのこと、監督だけしたいものも今後あるでしょうし、そのときの感覚で選んでるからわかんないよ! って思っちゃうんです。直感で生きてるから」

第24回東京国際映画祭で「杉野希妃~アジア・インディーズのミューズ」として特集上映が組まれ、“規格外の逸材”とも呼ばれる杉野だが、自らを“インディーズ監督”や“女性監督”とカテゴライズされることには違和感があると話す。

「映画は映画であって、インデペンデントとかメジャーって何だろうと思っちゃう。境目はない」「女性監督として男性監督に対抗したいという気持ちもまったくないです。ただひとりの人間として、自分が感心のある“女性性とは何か”とか“人間とは何か”というものを突き詰めていきたいなと思っています」

“規格”のない映画人として存在する杉野と、作品の規模が違っても「やることは同じ」と変わらぬスタンスを持ち続ける青木。映画に情熱を注ぎ続ける2人に今後も注目したい。

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