井端珠里×白石和彌監督“生”と“性”追求したロマンポルノ「牝猫たち」

2017年1月9日 21:00


2人の出会いは10年以上前
2人の出会いは10年以上前

[映画.com ニュース] 「最もセンセーショナルな作品レーベル」として国内外で評価された成人映画レーベル「日活ロマンポルノ」をリブートする「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の1作「牝猫たち」が、1月14日から公開される。本格的な濡れ場に初挑戦した主演・井端珠里と、メガホンをとった白石和彌監督が映画.comのインタビューに応じた。

本プロジェクトは上映時間80分前後、10分に1回の濡れ場をつくるなどのルールのもと、白石監督ほか塩田明彦園子温中田秀夫行定勲がロマンポルノに初挑戦。「牝猫たち」はワーキングプアの雅子(井端)をはじめ、それぞれの悩みを抱える3人の風俗嬢が東京・池袋の街をさまよいながら、そして何かにすがりながら生きていく姿を描いた。

紙の月」「グッド・ストライプス」の井端と、「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石監督。2人の出会いは、10年以上前にさかのぼる。白石監督が師事していた、故若松孝二監督の「17歳の風景 少年は何を見たのか」(2005)。当時高校生だった井端はチマチョゴリ姿で座るワンシーンで出演しており、助監督時代の白石監督と対面している。

「珠里ちゃんは座るだけで、わけもわからず不安なわけですよ。でも本番でいい顔をしたんです。目の強さ、芯の強さが心に残った。その後、折々『あの子どうしているかな』と頭をよぎっていたんです。そうしたら『断食芸人』に出ていることがわかり、『まだやっているのか』とうれしかった。その時期に面接に来てくれた」。白石監督は、思いがけない再会を振り返る。一方の井端は「当時は精一杯で、一瞬しか現場に居られなかった」と苦笑しつつ、今作主演の経緯を「グループオーディションでは脱ぎ審査もあると言われていたのに、脱ぐことなく『帰っていい』と。落ちたと思い、失恋した気分で帰宅しました。(決定時は)すごくうれしくて。部屋で小踊りしましたね」と明かした。

映画は風俗嬢の悲喜が、時にコミカル、時に切実に映し出される。なかでも白眉と言えるのが、放浪する女たちが生々しく活写される点だ。田中登監督作「牝猫たちの夜」にオマージュを捧げた白石監督は、「上手くいったのは、珠里ちゃん演じる雅子が行くあてもなく街を浮遊する。歩く先が見えないことが、実は日本社会そのものに見えればと思った」と込めた思いを口にし、「ルポタージュの映像化という感覚も狙っていました。セックス時のカメラワークなども、前貼りをもう少し見えないように練る必要も考えましたが、荒っぽく段取りした後に本番に入り、見えてしまった部分はカットしています。かなり即興がありましたし、生っぽい映像になったと思います」と手応えをにじませた。

また、今作ではオールアフレコを敢行。白石監督が「アフレコの良さは本番中にもしゃべれること。『はい、じゃあそこで右のおっぱいに』とか」と述べれば、井端も「すっごいしゃべるんですよ(笑)。お尻も出す濡れ場は初めてでしたが、女優として抵抗がまったくなく、音尾琢真さんとの絡みが面白かったですね。私もきれいに生々しく映りたかったので、腰のそらし方は研究していました」と充実の面持ちだ。

絡みはシャワールームや屋上などでも繰り広げられ、井端がSMクラブで緊縛されるシーンもある。ロマンポルノの“レジェンド”白川和子が、そのSMクラブのマダム役を担っている。井端は「かつてのロマンポルノでも拝見していました。素晴らしい女優さんです」とあこがれの女優から大いに刺激を受けた様子で、「私は緊縛の痛さから号泣が止まらなくて、縛られたまま白川さんに抱きしめられました。『これからはあなたたちの時代。頑張るのよ』と言われ、その優しさで余計泣いてしまったんです」とエピソードを披露した。

そもそも「最もセンセーショナルなレーベル」と称された日活ロマンポルノとは、何なのだろうか。井端は「女の美しさ、たくましさ、ずるさ、真っ直ぐさを詰めた宝箱」と表現する。白石監督は、“生”と“”のあり方を追求する作品群だと説く。「エロスを追求するものではない。本来『日活ポルノ映画』でよかったものを、なぜ『ロマン』をつけたのか。『』は心が生きると書きます。ロマンは生きるために必要で、だから今作は、生きていくことを訴える映画にしなければと思った」。2人の言葉通り、スクリーン上で濃厚に絡み合う男女の姿に、生命のきらめきを感じずにいられない。生がに意味を与え、が生への情熱を掻き立てるさまを、映画館で見届けてほしい。

牝猫たち」は、1月14日から全国順次公開。

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