“ドローン・パイロット”を描いた「フル・コンタクト」監督&主演が告白する役へのアプローチ

2015年10月30日 16:25


ダビッド・フェルベーク監督と アイヴァンを演じたグレゴワール・コラン
ダビッド・フェルベーク監督と アイヴァンを演じたグレゴワール・コラン

[映画.com ニュース] 現代の戦争の現場では、ドローンによる監視や攻撃が当たり前となり、戦地での肉弾戦は限りなく少なくなったという。一方、ドローン・パイロットはPTSD(心的外傷)を負う者が多く、その問題にフォーカスしたのが、第28回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された「フル・コンタクト」だ。命令通りに人命を奪っていることに、疑問を抱く男アイヴァンを描いた監督のダビッド・フェルベーク、アイヴァンを演じたグレゴワール・コランに話を聞いた。

この映画を撮ろうと思ったきっかけから教えてください。

ダビッド・フェルベーク監督(以下、フェルベーク監督):僕の前作は、ゲーマーを題材にした「R U There」という作品だったのですが、そこからの論理的、かつ必然の流れだったと思っています。「R U There」で描いたのは、とにかくゲームの世界にだけ生きているような人間です。彼はそこで人々を殺しているのですが、それが彼にとっては大変現実味がある、という物語でした。今回の映画は、その正反対だと思っています。つまり、実際に人を殺している、そしてそれに対して現実感がないということです。ということは、人間にとって何が現実であり何が現実ではないのか、そういったところを突き詰めたいと思ったんです。ちなみに、ドローン・パイロットという存在を初めて知ったのは、カンヌ映画祭に「R U There」出品している最中のことでした。

ドローン・パイロットへのリサーチはどのようになさったのでしょうか。

フェルベーク監督:なかなか資料は手に入りませんでした。たまたま2010年ごろ、ブライアン・ブラントという元ドローン・パイロットが、自分の経験をアメリカのメディアに公開し始め、彼の資料を参考にしたのです。でも、残念ながら彼と実際に会えたのは撮影が終わり、編集の段階でした。彼には完成した作品を見てもらいましたが、大変この作品を支持してくれました。彼の発言でとても印象に残っているのは、「私のPTSDに対するアプローチがとても現実的で、感じたことや経験を非常にうまくビジュアル化している」とも言ってくれたことです。

PTSDを抱えた役に挑むうえでの挑戦は、どこにあると思いましたか。

グレゴワール・コラン(以下、コラン):実際に、ブライアン本人に会って話ができればそれが一番良かったのですが、監督からは彼の資料をもらうことしかできませんでした。ただ、インタビュー映像を見ることで、彼の顔や話し方、どんな体験をしたかを知ることができたので、それが役作りに入るうえで自分にとっての初めの一歩になったとは言えると思います。難しかったのは、アイヴァンは作中で3つのキャラクターになることでした。撮影自体は3番目、最後のパートから入っています。しかもそのパートは、キャラクターの内的な演技が求められるパート。その次に撮影したのは第1パートで、それは彼の外面から見たときの演技を求められるものでした。つまりは1つの作品の中で、3人の登場人物が出てくると言ってもいいでしょう。でも同一人物ですから、異なる3つのものを、自分で関連付けをしていくという作業が難しかったです。

ひとりの男の現実と虚構を分けて描くという構成は、どうして思いついたんでしょう。

フェルベーク監督:しいて言えばどこまでが現実なのか、どれが現実なのかもわからないということではないでしょうか。私はこれを「無意識のロード・ムービー」と呼んでいますが、簡単に言ってしまえば、これはPTSDを抱えた男の頭の中で、どのようなことが起きているのかということなのです。人間の脳は、何かとてつもない事件が起きた時に、起こってしまった現実を再構築して頭の中で繰り返し、現実でないものを考えますよね。本作は同じ物語を3回映画の中で語り返したものだと思ってください。

劇中でバイオレンスとセックスのシーンが多く出てきます。これはPTSDを抱えた人の特徴と言えるのでしょうか?

フェルベーク監督:それは事実だと思います。ブライアンさんは、この映画を見て自分の実体験と酷似していることに驚き、「どうやって僕の頭の中に入ったのか」とまで言っていました。というのも、彼は公には語っていなかったことが本作で描かれていたからです。例えば、彼は実際にストリッパーと付き合っていましたし、そしてなんと空港のラゲージ係もし、総合格闘技もやっていたそうです。彼はターゲットと対峙しない卑怯なやり方で、人を殺したという経験をしました。そういう人は真の意味でハンターに回帰したいという欲望を持つのではないでしょうか。

コラン:私自身、ブライアンさんには会えなかったのに、それほどまでの偶然の一致を見るということは本当に驚きです。もしこの偶然がなければ、もっと別のものになってしまっていたでしょう。偶然の一致の面白さがこの作品にリアリティを与えたんだと思います。

(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)

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