タイ映画「スナップ」監督&プロデューサー&女優陣が語る“苦い青春”

2015年10月28日 22:20


タイの現在が描かれている
タイの現在が描かれている

[映画.com ニュース] 戒厳令が発令されたタイを舞台に、結婚を間近に控えたヒロインと、その彼女に淡い恋心を抱いた旧友との再会が描かれる「スナップ」。コンペティション部門で上映されている本作は、TIFF14上映の「タン・ウォン 腰掛けのダンス」のコンデート・ジャトゥランラッサミー監督の最新作であり、前作とはがらりと変わった作風が新鮮だ。そこで、コンデート監督、プロデューサーのソロース・スクムさん、ヒロインのプンを演じたワラントーン・パオニンさんと、その親友役のティシャー・ウォンティプカノンさんに話を聞いた。

ほろ苦い青春を描きながら、不安定な社会情勢を舞台にした重層的な作品ですが、この作品を撮ろうとしたきっかけは?

コンデート・ジャトゥランラッサミー監督(以下、コンデート監督):かなり苦い青春ですよね(苦笑)。まず、ロマンチックとかノスタルジーといった感情は、現代ではスマートフォンなどいろいろなツールを使って作り出すことが出来ます。でも、本当の意味でそういう感情がそこに存在するのかという疑問があったのです。そしてちょうどこの脚本を書いている時に、たった8年間でまたクーデターが起こりました。その時に思ったのです。国が政情不安であっても、スマートフォンなどで作り出しているロマンチックやノスタルジーな感情は、いまでも同じようにあるのだろうかと。

ヒロインのプンを演じたワラントーン・パオニンさんと、その親友役のティシャー・ウォンティプカノンさんは、まさにスマートフォン世代。本作に出演した感想は?

ワラントーン・パオニン:オーディションを受けるまで監督のことは知らかなったので、大急ぎで「手あつく、ハグして」とか「タン・ウォン 腰掛けのダンス」などの旧作を見て、ぜひ一緒にお仕事がしたいと思いました。出演が決まってからは、私は21歳なので、演じる26歳のプンが何を考えているのかを先輩たちと話をして教えていただきました。

ティシャー・ウォンティプカノン:そもそも友だちの付き添いでオーディションに行ったら、後日、「コンデート監督の映画出演が決まりました」と電話が来て「わかりました」と言ったものの、「コンデートって誰?」という感じでした。すみません(笑)。でも監督のことを調べたら、インディーズ映画を撮っている優秀な監督とわかり嬉しくなりました。

監督の“大人の思い”を若い女優さんや俳優さんに託すにあたり、どのような助言や演出をしたのでしょうか?

コンデート監督:ライフスタイルや自分たちが使っているデバイスの違いによって、ノスタルジーやロマンチックの本質が変わって来ています。たとえば昔だったら、フィルムのカメラで撮ってその写真が古くなっていくのを待つのですが、今はデジタルカメラやスマートフォンで撮った画像を加工して一瞬にして古くもできる。という風に、人々の気持ちも一瞬にして変わるのだと思います。この映画に出演している20~26歳の俳優たちとたくさん話をしましたが、彼らはほんの数年前の学生時代も懐かしいと言います。それを聞く私としては、なんだか自分がすごく年寄りのような気がしました。この映画の中にもありますが、自分がはやく年を取っているのか、時代がはやく流れているのか。

時代の流れがはやくなると、忘れていくものも多くなるような気がしますが?

コンデート監督:そうです。私自身はこの映画を青春映画ではなく、「誰かを思う」「人生からなくなってしまったもの」というテーマの映画だと思っています。私も40代になり、人生からいなくなった人が多くなってきたし、その代わり新しく入ってくる人もいる。いなくなった人を懐かしく思うけど、もうそのことに対しては何も出来ない。なぜなら、自分が自分の人生を選んだのだから。これはヒロインのプンと同じで、自分で「この人と結婚する」と決めたことなのです。それと同じ意味で、映画の中に出てくるクーデターもタイ人の選択です。クーデターが起きるということを認めた。そしてその政権下で暮らしていかなければならないのです。

プロデューサーとして、次々と違う作風を撮り続けるコンデート監督と組むメリットはどこにあると思いますか?

ソロース・スクム:私と監督は、ほぼ同世代で一緒に成長して来たので気持ちもわかります。これまでたくさんの監督のインディーズ映画をプロデュースしてきましたが、中には実験的過ぎたり、アートに偏りすぎたりする作品もあって。そういう仕事をしていると窮屈で悲しくなります。でもコンデート監督とは息があう。監督とプロデューサーは、監督が夫でプロデューサーが奥さんのようなものです。夫が「これが欲しい」といえば、奥さんが「これは出来るけど、あれはダメ」とハンドリングする。コンデート監督とはその話し合いが出来て、他の表現方法も考えてくれる。一緒に仕事をしていて楽しいのです。

戒厳令下にあるいうことがテレビのニューズやさりげない会話の中にあり、静かな緊張感をかもし出しているのが印象的でした。

コンデート監督:8年前と今回のクーデターはちょっと性質が違う。前のクーデターは軍と民衆は別でした。でも、最近のものは賛同する民衆もたくさんいた。この映画の中では軍事クーデターの賛否は描いていません。ただクーデターにより人々の見解の違いが出てきて、友人はおろか家族までが反目しあうことになる。私としてはたとえ政治的な見解が違っても、政治のために人と人がケンカをすることは非常に無意味だと言いたいのです。

(取材/構成 金子裕子 日本映画ペンクラブ)

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