イッセー尾形が語る、俳優としての在り方

2015年10月14日 10:00


猫との共演を振り返ったイッセー尾形
猫との共演を振り返ったイッセー尾形

[映画.com ニュース] 孤高であると自負しているが、孤独だとは認めたくない。イッセー尾形が「先生と迷い猫」で演じた元校長先生は、そんな人物ではないだろうか。見るからに偏屈で堅物。己の信念を曲げそうにないタイプだが、亡き妻がかわいがっていた野良猫の一挙一動に揺さぶられていく。おかしくて温かく、ペーソスにもあふれたささやかなドラマを生み出した猫との共演を振り返った。(取材・文・写真/鈴木元

独自のスタイルを確立した一人芝居の第一人者。想像するにその作業は孤独だが、観客には孤高の存在として映る。そう考えると、校長先生は対極にいるようなキャラクターに思える。しかも主たる相手役は猫。しかし、尾形はそこに興味をひかれたようだ。

「面白いなと思いましたね。ドラマって人間と人間がやるものですけれど、猫という動物を介在させるとドラマが膨らむな、と。楽しみではありましたけれど、どうやって校長先生を造形していけばいいのだろうというのは現場任せ、監督任せみたいなところはありました」

亡き妻が「ミイ」と呼んでいた野良の三毛猫は、毎朝、仏壇の前に座っているが、校長先生は生前の姿を思い出してしまうため、邪険に扱ってしまう。初対面がそのシーンで、リハーサルなしのぶっつけ本番だった。

「いきなり演技が始まっちゃったけれど、なんかただならぬ気配がありましたよ、後ろ姿に。場数は踏んでいるなと思いました。この映画を、僕よりもうんと理解していそうなたたずまいでしたね。気品のある顔をしていてね。目が昔のロシアの貴族みないた感じがしました」

それもそのはず。ミイは、NHK朝のテレビ小説「あまちゃん」にも出演していた“ベテラン”の三毛猫ドロップ。とはいっても、猫は自由気ままな生き物。これまでの手練手管は通用しない。

「猫ってピョンピョン動くのが自然だと思っているけれども、逆にジーッとしていたりすると何か想像しちゃいますよね。人格を試されているような。猫は猫なりに人間観察をしているような気がするんですよ」

しかし、ある日を境にミイはこつ然と姿を消す。猫用のくぐり戸を封鎖して来訪を拒んでいた校長先生も、その存在の大きさに気づき必死で探し始める。その過程でミイは、妻がなじみにしていた美容院、教え子の家の近所など、あらゆる所でさまざまな人々の癒しになっていたことも知り、地域の人々との思わぬ交流が生まれていく。

「後半にいたっては、役をそんなにクールにとらえていなかったんだと思うんですけれど、皆が妙に優しくしてくれてね。校長は人と一致することがなかなか難しいんだけれども、猫のおかげで周りが寄ってきてくれたと言いますか。(岸本)加世子さん演じる容子に『校長、変わったわよ』って言われてね。映画の中では気づいていないけれど、しばらくたってから気づいて美容院に行ったりするんじゃないですか」

映画主演は「太陽」以来、実に9年ぶり。主演という意識はそれほどないというが、十分な手応えはあったようだ。

「座長はドロップだから(笑)。一番出番の多い脇の役者だって思っていました。でも、満足感はありますし、ちゃんと尽したなって感じもあります」

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