【銀座シネパトスへ捧ぐ】樋口尚文監督×染谷将太が放つ日本映画への“男気”

2013年2月22日 17:25


銀座シネパトス閉館を惜しんだ樋口尚文監督と染谷将太
銀座シネパトス閉館を惜しんだ樋口尚文監督と染谷将太

[映画.com ニュース] 2012年7月、「銀座シネパトス閉館」という映画ファンには衝撃的なニュースが駆けめぐった。同館で日本映画を検証する数々の特集上映にかかわってきた映画評論家・樋口尚文氏にとって、穏やかならざる心情であったことは想像するに難くない。そんな樋口氏は、3月末で閉館する同館を舞台にし、日本映画黄金期の大スターからインディペンデント映画の若手ホープまでもが総出演する映画「インターミッション」を自ら撮り上げた。なかでも、主人公となる名画座の支配人夫婦を演じた秋吉久美子染谷将太は、異色の組み合わせ。ほとばしる同館への思い、日本映画への愛情について、樋口監督と染谷が語った。

物語の舞台となる銀座シネパトスの歴史は1967~68年、銀座の中心部に近い三原橋地下街に「銀座地球座」「銀座名画座」としてオープンしたところから始まる。これまでに、日本を代表する巨匠や名優の作品を特集上映したほか、出演俳優たちによるトークショーも開催し、多くの映画ファンたちに愛情を注がれてきた。しかし、同地下街の耐震性の問題で取り壊しが決まり、閉館を余儀なくされた。樋口監督は当初、「“さよなら興行”みたいなことをやって終わるのかな……と思った」という。だが、「パーンとひらめく感じで『ここは映画館なんだから全天候型でいつでも撮影できる。もしかしたら、映画を愛するキャストさん、スタッフさんに声をかけていけば映画が撮れるんじゃないか』と感じたんです。ただ、お金もないし根拠はありませんでした」と述懐。そして、コンセプトを掘り下げていった。

樋口監督にとって、秋吉と染谷の2人は今作製作に際して必要不可欠な存在だったそうで「この2人が『うん』と言わなかったらダメだと。口説いてみて、どちらかに断られたらやめようとすら思っていた」と強いこだわりを明かす。その理由を、「昭和を象徴する、僕らが栄養をいただいていた作品を担っていたヒーロー、ヒロイン。これが秋吉さん。そして、平成生まれの染谷さん。年齢の問題ではなく、昭和が持っていた良い部分を継承しているかた。彼はパトスにゆかりはないけれど、パトスの向こう側にある昭和のはっちゃけた無茶をやってくれそうだと感じていたのです」と説明する。

熱烈オファーを受けた染谷は、「台本以前の問題。参加することに意味がある。つまらないわけがないし、以前から樋口監督とお食事をご一緒させていただいて、この企画についてうかがったときも、何も断る理由がなかった。喜んでやらせてくださいという感じでした」と笑みを浮かべる。撮影時、樋口監督からは「ひたすら『かましてください』と言われ続けました(笑)。それが僕に対しての演出でしたね。かませたかどうかは分かりませんが、自由にはやらせてもらいました」と手ごたえをつかんでいる様子だ。

また、夫婦役ゆえ必然的に共演シーンの多い秋吉について「気をつけたことは、秋吉さんに変に気を遣わないということ。奥さん役ということもあるので、人として最低限のご挨拶とかはしますけれど、機嫌をうかがったりしないようにとか……。ドン! と現場にいらっしゃるので、逆に乗っかることができましたね」と振り返る。樋口監督も、「染谷さんには『秋吉さんを食べちゃって!』とお願いするわけです。その一方では、秋吉さんに『染谷君を本気で蹴っちゃってください。やっちゃってください!』と無茶を強要しまくっていました」とニヤリ。樋口監督とキャストとの強固な信頼関係あってこそ成せた業といえる。

映画はタイトル通り、劇場の休憩時間に展開される、ユニークな観客たちの会話劇が織りなすブラックコメディだ。全編いたるところに樋口監督のこだわりがちりばめられ、それは染谷の着用したカツラにも反映されている。今作で染谷のために金髪のセミロングのカツラが用意されたが、樋口監督は「この辺にいないような、特異で怪しい妖気をはらんだ美少年ということでやりたかったんです。ところが、『永遠の0』という映画で坊主になっておりまして、がく然としました」と明かす。そして、「ちょっとこれは……ということでカツラを至急用意してもらおうということになったんです。特殊メイクさんが『どんなイメージなんですか?』と聞かれたので、これで!と『ベニスに死す』のタジオ(ビョルン・アンドレセン)の写真を見せまして。バカ受けしていましたね」と、してやったりの表情を浮かべる。

樋口監督は、撮影現場でもインタビュー中でも終始一貫して穏やかな口調で、学生時代に自主映画を製作していたとはいえ、染谷に注がれる穏やかな眼差(まなざ)しは商業映画初監督とは思えない。そんな樋口監督が若かりし頃に撮った作品を激賞したのが、他でもない巨匠・大島渚監督だった。今作には妻の小山が出演しているだけでなく、エンドクレジットには「賛助 大島渚」とあるように、資金援助も受けたという。現在も大島家とは交流が続いており、「監督とは30年以上のお付き合いになります。最近もお会いしてきましてね。うれしかったのが、昔、自主映画を撮っていたとき『こいつは面白いやつだ』とおっしゃってくださって。監督の自宅に住所録があるのですが、僕の名前が評論家ではなく監督の欄に入っていたらしいんですよ。『こいつ、いつか何かやるだろう』と思ってくださっていたのでしょうね」と思いを馳せる。誰よりも今作の完成を喜んでいるのは、大島監督かもしれない。

今作は、2月23日から同館の最終上映作品として公開される。樋口監督が「インターミッション」に込めたメッセージからも読み取れるように、同館のフィナーレに感傷的な気持ちは似合わない。染谷が「映画館って好きでよく行くんです。なくなっていくということは、時代が流れているから仕方のないことだと思うんですが、それが良い方向に行くのならいいのですが、退化しているように思えるんです。どうにかしたいと軽々しくは言えないですが、何とかならないのかなとは思います」と語るように、今作が樋口監督、そして染谷が愛してやまない日本の映画業界へ一石を投じる役割を果たしてくれることを切に願う。また、日本映画史に名を刻んだ樋口監督の第2章を、首を長くして待とうと思う。

Amazonで今すぐ購入
貞子3D 貞子の呪い箱【4,444セット限定】[Blu-ray/ブルーレイ]

貞子3D 貞子の呪い箱【4,444セット限定】[Blu-ray/ブルーレイ]

最安価格: ¥7,040

1998年に一大ブームを巻き起こした『リング』の貞子が蘇る!!鈴木光司書き下ろしのシリーズ第5弾!各地で不審死が相次ぐが、警察は一様に自殺と断定する。だが、みな共通して死の直前にある動画を見ていた。その動画からは、「お前じゃない…」という女の声が聞こえる―。出演:染谷将太
YUICHIRO SAKURABA in ムコ殿(2)[DVD]

YUICHIRO SAKURABA in ムコ殿(2)[DVD]

フジテレビ系にて放映された、「抱かれたい男NO.1」のシンガーソングライター“桜庭裕一郎”が極秘結婚し、大家族に婿入りするというホームドラマ。出演:秋吉久美子

DVD・ブルーレイ

Powered by価格.com

関連ニュース

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. 松山ケンイチ&染谷将太、福田雄一監督「聖☆おにいさん」実写映画化! 12月20日公開

    1

    松山ケンイチ&染谷将太、福田雄一監督「聖☆おにいさん」実写映画化! 12月20日公開

    2024年5月9日 04:00
  2. 山田涼介、学園ドラマで初の教師役「ビリオン×スクール(仮)」7月放送開始 「若い世代に大きな背中を見せられるように頑張りたい」

    2

    山田涼介、学園ドラマで初の教師役「ビリオン×スクール(仮)」7月放送開始 「若い世代に大きな背中を見せられるように頑張りたい」

    2024年5月9日 05:00
  3. 「逃走中 THE MOVIE」新たに総勢10名の参加者が判明! ダイアン・津田、錦鯉・長谷川ら売れっ子芸人&タレントが本人役で出演

    3

    「逃走中 THE MOVIE」新たに総勢10名の参加者が判明! ダイアン・津田、錦鯉・長谷川ら売れっ子芸人&タレントが本人役で出演

    2024年5月9日 08:00
  4. 劇場アニメ「ルックバック」入場特典は藤本タツキの原作ネームを全て収録した冊子

    4

    劇場アニメ「ルックバック」入場特典は藤本タツキの原作ネームを全て収録した冊子

    2024年5月9日 07:00
  5. マーベル社長、ヒュー・ジャックマンにウルヴァリン復帰の辞退を薦めていたことを告白

    5

    マーベル社長、ヒュー・ジャックマンにウルヴァリン復帰の辞退を薦めていたことを告白

    2024年5月9日 11:00

今週