ゴバディ監督の痛烈な国家批判「ペルシャ猫を誰も知らない」

2010年8月13日 19:42


すでに次回作のことで頭がいっぱい
すでに次回作のことで頭がいっぱい

[映画.com ニュース] デビュー作「酔っぱらった馬の時間」や「亀も空を飛ぶ」など、これまで故郷である中東・クルド地方を舞台にした作品をつくってきたイランのバフマン・ゴバディ監督が、初めて大都会テヘランを舞台に製作した「ペルシャ猫を誰も知らない」が公開中だ。西洋文化を禁止する厳格なイスラム社会の下で、政府の目をかいくぐりながら自由な音楽活動を行う若者たちの悪戦苦闘を描いた青春ドラマになっている。

「イランではミュージシャンがどんな状況に置かれているのかを世界に伝えたかったんだ。今のイランでは、治安部隊の急襲によって命を落とす人が本当に多い。パーティをやっているだけで、厳しく取り締まられる。実際、テヘランのアンダーグラウンドで音楽をやっている人間は、国外へ逃亡するか、自殺するか、ケガをして誰かに面倒をみてもらいながら生きていくという3つの選択肢しかないんだよ」

そんな厳しい状況ゆえに、映画完成後にキャストのミュージシャンたちが危険な状態にさらされることを考慮して、一度は映画の製作を断念したのだとか。

「彼らのことを思ってあきらめたが、逆に映画をつくるよう懇願された。ミュージシャンにとっては、自分たちの作った楽曲が世界中の人間に聞いてもらえるチャンスという意味合いのほうが大きかったようだ。映画が完成して(イラン以外の国で)公開された今は、自分たちの存在を世界にアピールができたことを喜んでいるよ」

イランでは、政府の許可が下りた映画しか、大っぴらに撮影ができないため、本作の撮影は劇中の若者たち同様に、ゲリラ的に行うほかなかった。

「当局の許可なしでの撮影だったから、細心の注意を払ったよ。すべてのシーンを、警察や治安部隊に見つからないように撮らなくてはならなかったからね。一番大変だったのは、パスポート偽造の老人の逮捕シーン。普通の車をパトカーに変えて、警官の制服を買って、素早く撮った(笑)。結局、撮影は17日間で終わったんだけど、17カ月もあったように長く感じたよ」

現在は身の安全を守るため、イランを離れてイラクで暮らしているゴバディ監督だが、近い将来、必ずイランに帰ると決めているという。

「周りの人間からは、イラクにいてもボディガードを雇うべきだと言われている。だけど私自身、この映画を撮ったせいか以前より死を恐れなくなったんだ。私の予想では、イランの現政権はあと1年くらいしかもたない。だから、祖国に帰れる日は近いと思っている。イランは今、全世界から見放されている状況。私は映画をつくって発表することで、世界の目をイランに向けさせることしか出来ない。他国への亡命なんて考えたこともないよ」

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