劇場公開日 2021年9月17日

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由宇子の天秤のレビュー・感想・評価

全139件中、101~120件目を表示

5.02021年を代表する一本

2021年9月24日
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重層的で緻密に練り上げられたストーリーと抑制の効いた演出、そして俳優陣の迫真の演技。

これは2021年を代表する圧倒的な一本だ🎥

教育現場、家族の領域、ジャーナリズムの世界での出来事を通して、自らの日々の在り方へと思いを巡らせながら映画を見ることの歓びに浸る2時間30分だった。

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西 伸人

3.5報道する側の正義感と報道される側の恐怖

2021年9月23日
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鑑賞方法:映画館

自分(たち)は正しいと信じている人たちは厄介だと思う。「あなたのためよ」とか「国民の知る権利のため」とか言い出したら怪しんだほうがいい。マスコミが目の敵にされるのも、「知る権利」という大義名分を掲げながら実は興味本位で人のプライバシーに踏み込むからだ。もちろんそんなプライバシーに踏み込んだ内容を知りたがっている人たちが多数いることもたしか。知る権利と報道される側の権利の問題は簡単には解決しない。
本作の主人公・由宇子はドキュメンタリー映像を作るジャーナリスト。自殺した教師と生徒、双方の遺族のインタビューを撮影しようとする。学校、教師の遺族、生徒の遺族、それぞれの言い分があってそれを偏ることなく正しく伝えようとする由宇子の姿は正義感に溢れていた。
でも、父親が経営する塾に通う女子生徒の存在や、放送局の上層部の考え等が絡まって、さらにはいろんな嘘が明るみになることで、何が正義なのか、どれが本当のことなのかわからなくなる脚本はなかなか迫力があった。由宇子が報道される側の恐怖を誰よりも理解しているのがリアルに感じた。彼女は自分が100%正しいわけじゃないと理解していると思う。
そして、ラスト。あんな終わらせ方するとは思っていなかった。何も解決していないし、むしろ状況がわるくなっている気さえする。でも、そこもリアルだった。
内容は全く異なるが、同日に鑑賞した「空白」とテーマがカブる気がした。正義・正しさ、報道の姿勢、遺族の悲しみ…。現代社会で無視できないテーマだ。

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kenshuchu

4.0こんな『天秤』はいやだ。

2021年9月23日
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ひどい社会になったものだ。

日本はぶっ壊れている。

もう、そう思わざるをえない。

そこから始めないといけないのではないか。

『天秤』が必要なぐらいに社会がもうぶっ壊れている。そこそこ健全で、そこそこ確かなものが作品の中にはひとつもない。

由宇子の『天秤』はそんな不確かな中を生きている何かが足りないみんながちょっとずつでも幸せになれるかどうか、生きている実感が持てるかどうか、そこだけが基準でまったくもって間違ってはいなかった。充分すぎるぐらいに人としても尊敬に値する。

でも、そんな由宇子をもってしても、どうにもならなかった。

もしかしたら由宇子に必要だったのは由宇子が相談できる人だったのだと思う。

これだけの人がここまで追い込まれるということは、この社会が今、『詰んで』しまっているということなのだと思う。

『この世界の片隅に』ある話ではないというところに立たないといけないのではないのか、そんなことをこの作品を観ながらいろんな場面で考えていた。

簡単に個人が追い込まれてしまう社会、安心とか安全から程遠い社会に自分たちはたどり着いてしまったようだ。

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エク

4.02つの事件から構成される2つの視点。事実と正義が揺らぐ傑作。

2021年9月23日
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鑑賞方法:映画館

ドキュメンタリーディレクター・由宇子が追う女子高生いじめ殺人事件と、その彼女の父から告げられた衝撃の事実。この2つの事件は交わることなく、この映画は進行していくが、由宇子は2つの事件の間で揺れ、その心情の変化や次々と知る情報から、思わぬ方向へ揺らいでしまう。

まずドキュメンタリーディレクターと言う設定が良い。
真実を追求しなければならない立場にあり、そのために由宇子は出来るだけ遺族に寄り添う形で真実を聞き出そうとしている。そのためには上に盾突く事もあり、この辺りはジャーナリストとしての神髄を見せられる。

しかし、その一方自らの家族にのしかかった真実や、遺族に寄り添う事で互いに心を開いていく中で、彼女の中に守らなければならない事も増え、やがてそれは真実や正義がどんどんあやふやなままエンディングを迎えるという何とも言えない展開だった。

この映画は今までに見たことのない視点を我々に与えている。
2つの事件、事象を背負った場合、自らが本当に自分の中の答えとなるものを実行できるか。
事実を追うだけの映画なら割とベタだし(最もドキュメンタリーとはそのことだ)、背負った苦悩を描き出す作品も多い。しかし、2つの間でどういう判断するか、を描く作品なんて見たことない。秀逸だ。

あと個人的に由宇子が教え子を守るために法を犯そうとした点だ。よく「法さえ犯さなければ何やったって良い」みたい事を聞くが、あれって薄っぺらいな、と。法を犯しても守れる事もあるなら、それが本人にとっては善になるのか。この描き方もまた私に新たな着眼点をくれた。

本当まさに現代は正義の暴走が止まらない。この映画のタイトルで言えば、天秤がちょっとでも片方に傾くとバランスが取れないほどそちら側に傾いてつり合いが取れない。そして正義を振りかざし、善悪の答えを知ったように超情報化社会の中に足跡を残す。ツイッターやヤフーコメントなんかがまさにそうだと思う。

しかし、他人が簡単に一つの事象を善悪色付けしたり、正義を振りかざすことなんてとても難しいことである。最後の最後までこの映画は明確な答え合わせはされないまま、最後は鑑賞した人に考えや思いを問いかけたような作品であった。

またこの作品は役者陣の演技力なしではあり得ない。まずそこだと思う。2時間半音楽もなく、感情もものすごく抑えられている。観る側の集中力を切らさないのは役者陣の圧倒的演技力あってこそなのだと感じた。

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じーたら

4.0この天秤、メディアの人はどう観る?

2021年9月23日
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鑑賞方法:映画館

由宇子の真実を求め、時に貪欲に突き進む姿に、黒木瞳主演の「破線のマリス」を思い出した。映像編集者である彼女が、仕事への熱心さから来る真実への思い込みにより、由宇子のように第三者から加害者側になってしまう話だ。
この世の中、いつ入れ替わっても不思議ではない、被害者と加害者。それを伝えるメディアは、ドキュメンタリーと言えど、編集をしてしまえば、完全なるドキュメンタリーとは言えない。
今ニュースになっている様々な問題は、どこまで事実でどこまで掌を加えたのか?捏造なのか?と判断できない案件が山積している。

由宇子に次々と起きる問題を、私ごととして置き換えて考えさせるところが出色の作品。物事は白黒だけではなく、灰色を上手く使うことが肝要。なるたけ人も自分も傷付かず、上手く立ち回れたら良いのだが。神様には顔向けできる程度に。
襟を正して、今後の人生に向き合わなければ、と思わせてくれた社会派の映画。
音声が何箇所か聞きづらかった分、更に気を抜かず一言一句聞き漏らすまいと神経を尖らせ緊張して観た。
パンフを購入すると、その後の少し明るい希望が見える仕掛けがあるそうで。それって、ズルッ。

その他気づいたこと。
①由宇子のお父さん、自分の不始末を娘にばかりやらせすぎでは?
②亡くなった先生が好きだったパン。一旦仏壇に備えてから食べてほしかったな。
③父子家庭、母子家庭の家の中の違いがよく表されていた。
④役者さんが皆素晴らしい。

実際メディアのお仕事されている皆さんは、どのように感じたのでしょう?

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ちゃっぴー

5.0これは衝撃的ではない。

2021年9月22日
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登場人物それぞれの日常なんだと思うんです。

ずっとキープオンするんです。

傷つけ合うんです。

イライラするんです。

喜び合うんです。

満ち溢れるんです。

立ち向かうんです。

逃避するんです。

人生はキープオンするんです。

と私は受け止めた。

みなさんはどう?

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たかはしすすむ

4.5パン

2021年9月22日
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鑑賞方法:映画館

興奮

幸せ

観ていて飽きず面白かったが、帰りにいろいろ考えてしまった。子供に関わる場面は悩ましい。他には、パンをゆっくり食べる場面とかを思い出した。

たまたま観た後に主演の俳優さんが挨拶された。応援したくなる映画でした。

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ぼうパン

4.0好きだ

2021年9月22日
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鑑賞方法:映画館

 瀧内公美さんが、来場していてビックリ。
素敵な方でした。

 過去にメディアの見出しで見た様な話しを、ドキュメンタリーかな?タッチで展開して見る者を吸付ける、秀逸。瀧内さん、素敵です。
 所詮人間、揺れる気持ち、判断、感情
入り混じった人物を好演。
 最期は、観た者に判断を投げ掛ける演出に俺は○!

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ロッキー

4.0掘り出し物

2021年9月22日
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起伏が少なく眠くなりそうなほど静かなのに目が覚める衝撃。
表情があるような無いような演技がリアル。
天秤とは、現実と虚構、本音と建前、良心とエゴ、信頼と不義などなど…それぞれを天秤にかけてどちらに傾くか、傾いた方が正しいとは限らない。

予告では、内容は面白そうだけど寝そうだなと思ったが、心を捕まれました。

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Oyster Boy

5.0『死んだ方がマシ』だらけ。

2021年9月21日
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とんでもない傑作。
平日なのに満席。
席を予約しておく事をお勧めします。
海外でも大絶賛「由宇子の天秤 」

『死んだ方がマシ 』がいくつも降ってくるのに
その中で魅せるみんなの笑顔。
どんなに辛くても冷静な程
“職業病”という沼にどっぷりな主人公を
何度も見つめ治す。
だって、俺なら気が狂ってます、きっと。

そして日本のメディアを刻々と考えさせられる内容は
映画という手法だからこそ伝わる。
春本雄二郎 監督から名刺頂きました。
全国民に観て欲しい。

この監督、絶対に有名になる。
でも、なった後も同じ気持ちで
メディアに接していられるのか。
興味津々です。

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溶かしバター大盛りポップコーン

4.0タイトルどうりの映画で、ちょっと珍しい。

2021年9月21日
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報道のあり方と人間の良心を天秤に掛けたら、あなたはどちらを選択しますか?
どストレートの映画で、かえってすがすがしい。また、人間の弱さも描かれて好感がもてます。
当初は真実を報道するのが信念の主人公についていけない。が、塾講師をしている父親が生徒と不純異性交遊が判明してから、俄然面白くなります。ドキュメンタリータッチで私の好みではないのでが、最後まで引っばっていきます。
結末については、観客によっていろいろ意見があるでしょう。私はあの結末に反対です。
アクセルとブレーキを踏み間違えて、母子を死なせてしまったと言われる元通産省幹部だった人の事故、真実はどうだったか思い起こしました。

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いなかびと

3.5そこはかとなく

2021年9月21日
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悲しい

難しい

寝られる

序編から承転 終幕と各編で印象が変わる深き流れ、

親父の人柄生様が胸に刺さる

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褐色の猪

5.0全ては藪の中

2021年9月21日
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設定を由宇子に絞って進行させることで見てる側をどんどん迷わせる。倫理や正義と、保身?というか今の環境を壊せないという感情の狭間、まさに【天秤】がグラグラして… 何度ため息ついたことか。ホント胃が痛くなる2時間だった。
劇中の由宇子のセリフ「真実が幸せ?正しい?とは限らない(?ウル覚え)」は製作中の事件と父親と相手への対応と当事者としてのラストの出来事全てにかかってきて、ドキュメンタリー作家のアイデンティティも揺さぶってくる。
ホントいやーな話だけど、ちゃんと向き合って考えるべきテーマだわ… おれの日常のすぐ隣でいつ起きるかわかんないもんね…

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けつお

5.0"立場"によって変わる正しさ・正義

2021年9月21日
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興奮

知的

難しい

まず、ドキュメンタリー番組制作に携わった経験がある者としての感想は、番組制作における「あるある」が詰まってて笑ってしまった(さすがに、あんな嫌な局Pに会った事はないけど)。当たり前だがバラエティやドラマ、報道などの番組を作るには製作費がかかるが、中でもドキュメンタリーは予算が空前絶後に低く、あれこれ試行錯誤する必要がある。おそらく主人公の由宇子も、予算が潤沢でない番組に携わっているのだろう。
閑話休題。
本作の登場人物は、とにかく"立場"が入れ替わる。初見は誠実なDに見える由宇子が、時おり取材協力者の希望を逸脱してまでカメラを向けるあざとさ(この辺も実にテレビマンらしい)を見せたかと思えば、仕事とは関係なく被写体に誠実に寄り添う。キーパーソンである女子高生の父親も、初見は暴力的な人物かと思わせておいて、一方で娘思いでかつ義理堅い性格の持ち主という顔も見せる。そしてその女子高生も、由宇子の父親も、由宇子が追っていた自殺事件の遺族も、初見とは異なる"立場"が徐々に露呈してくる。
キャッチコピーの「正しさとは何か?」でも表されているように、何が正しくて何が悪いのかは、登場人物たちの"立場"によって変わってくる。
「正しさ」、「正義」ほど信用できない言葉はない。だからナチスが「正義」としてホロコーストを行えば、仮面ライダーも「正義」のためではなく「人間の自由」のためにショッカーと闘った。
結果として本作はアンハッピーエンドに括られるのかもしれない。ただ、ラストに由宇子が取る行動は、意図は違うが森達也の『放送禁止歌』のそれとダブる。
そもそもハッピーエンドかアンハッピーエンドかを決めるのも、観た人の“立場”によって変わってくる。

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regency

3.5ハードな作品。監督脚本の気合いが感じられました

2021年9月20日
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高校教師と生徒とのスキャンダル後の自殺事件のドキュメンタリー監督と同時に父の経営する塾での生徒の妊娠騒動。主人公の天秤にかけられる人生が社会の現実の狭間でもがいている様でとてもリアルに描かれています。重苦しい空気感がラストまで続き爽快感は全くない作品ですが
見ているものに強く訴える力のある作品でした。生々しいテーマで誰にでもお勧めできる作品ではないですが監督と関係スタッフ、出演者の気合を感じる作品でした。
当日は監督自らロビーでお客さん一人一人に名刺を配られてました。頭が下がります。

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Yoji

5.0一見の価値ある作品。

2021年9月20日
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怖い

全編に漂う閉塞感はまさに今の社会環境を彷彿とさせる。エンドロールに音楽もなく淡々と終劇を迎えることで渾沌としている日常性をより意識させられた。

正しさとは真実とは違うんだ、正しいと主張し万人に認知されればそれが正しさなんだな、嘘が正しさにもなりうるし、最後は当人の良心の判断に委ねられる。だが偽りの正しさは良心に過剰に接しすぎると揺らいでくる、そして嘘の正しさに耐えられなくなる。

都合の悪いことは触れたくない、思い出したくないは嘘を真の正しさと信じたいだけかもしれない。

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ちゆう

4.5真実=正義?

2021年9月20日
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上映時間中、ずっと内蔵がキリキリするのを感じていた。

多くの人が、悪意からではなく、自分や誰かを守るために最善と信じて、嘘をついたり隠し事をする。

ジャーナリズムだって、結果的には誰かにとって都合のいい事実(らしきモノ)を抽出して並べているに過ぎない。

その「真実」によって誰かが被害を被ることが明らかな時、「正義」の名の元にそれが太陽の下に晒されるコトは、本当に「善きこと」なのか。

見終わって思い出すと、この映画の中では、あえて「真実」には触れられないことに気付く。大事なのは真実じゃないんだな。
でもそこには確かに人々の生活がある。

映画としてはやっぱり役者陣の熱演がスゴイ。
主人公は言うに及ばず、その父親、生徒の父親も素晴らしいけど、特に登場する子供たちのリアルさ。

「これはすげぇモノ観たな」って感じ。。

47

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キレンジャー

4.0誰もが天秤にかけ迷っている

2021年9月20日
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ドキュメンタリー・ディレクターの由宇子。
女子高生の自殺、そして彼女との関係を噂された男性教師の死の真相を追う由宇子。

父と二人暮らし。
父が営む学習塾を手伝う由宇子。
素晴らしい父であり、素晴らしい先生である父。
塾の生徒と関係をもった父。

真実を見誤り、真実を隠そうとする由宇子。

色々な真実があった。色々な真実があることに気づかせてくれる作品だった。

これは今年の日本映画のベストの一本だろう。

それにしても瀧内公美さんが素敵だった。主演女優賞は『茜色に焼かれる』の尾野真千子さんとの一騎討ちになるのでしょうか。

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エロくそチキン

3.5弱い人も嘘を吐く

2021年9月20日
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 上映前の舞台挨拶で春本雄二郎監督は「ストーリーを追わないでください」と言っていた。その通りの作品であった。

 瀧内公美は映画「彼女の生き方は間違いじゃない」や映画「裏アカ」を観て、ところどころで光る演技をする女優だと思った。本作品でも、冴えない場面は少しあったものの、凡その場面でリアリティのある演技をしていた。

 本作品で演じたヒロインの木下由宇子は、ドキュメンタリー監督及びインタビュアーとしていじめ自殺の真実に迫る映像を撮っていくが、いかにも浪花節的な精神性で、人を信じすぎるきらいがある。「私は誰の味方もしませんよ」と言いつつも、弱い人の味方という立ち位置で取材をする。弱い人はただ人権を蹂躙される正直者だと誤解しているのだ。本当は弱い人にも戦略があり、ときに嘘を吐くということを忘れている。
 テレビを主戦場とするなら、局の政治的な圧力も承知の上で、限界ギリギリの妥協点を探りながらの番組作りをしていかねばならない。海千山千のしたたかさが要求されるのだ。しかし由宇子は正論にこだわる。そのあたりの未熟さを瀧内公美はとても上手に演じ切ったと思う。
 凡そ人は喜怒哀楽の場面に遭遇したときは、先ずフリーズする。いきなり泣き出したり怒り出したりすることはない。目や耳から入ってきた情報を分析しているからだ。瀧内公美のフリーズする演技はなかなかのもので、とてもリアリティがあった。

 ある意味とっ散らかったストーリーの中で、由宇子に降りかかる災難は半端ではない。その全部を彼女は黙って引き受ける。そこに彼女の弱さがある。無視して、人を見捨ててしまう冷酷さがないと、ドキュメンタリー監督は務まらない。弱い人も嘘を吐く。
 ジャーナリストではない。ドキュメンタリー監督なのだ。自分の責任を棚に上げて、自分が生きていることさえも棚に上げて、超客観的な視点、所謂神の視点で映像を撮る。強者も弱者もともに突き放して、由宇子自身が言ったように、誰の味方もしない。そのために必要な冷酷さを身につけなければならない。自分や家族を守っているようでは、いつまでもちゃんとしたドキュメンタリーは撮れない。由宇子の天秤がちゃんとバランスを保つようになるまでには、もう少し時間が必要だ。そういうラストであった。

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耶馬英彦

5.0観客の固定観念を軽快に裏切り続けて想定外の結末に誘う『不思議の国のアリス』ミーツ『踊る大捜査線』

2021年9月20日
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主人公の由宇子はドキュメンタリー番組のディレクター。女子高生自殺事件の真相を追うために自殺した女子の家族ら関係者への取材に奔走する傍ら、父が経営する学習塾を講師として手伝う毎日を送っているが、ある日塾で起こったささいなトラブルをきっかけに由宇子は次から次へと様々な選択を迫られる。

これで今年の新作映画鑑賞は97本目ですが、これは昨日までベストワンだった『Mr.ノーバディ』を超えました。凄まじいレベルの傑作です。

普通こういう映画だと主人公は実直な人で困難にブチ当たるたびに打ちひしがれたり苦悩したりしますが、由宇子はそんなキャラではなく冒頭から自分の撮りたいものを撮るためには手段を選ばない強かさを備えています。その強かさが盛大に繰り返されるどんでん返しで延々と試され続ける様はまるで『不思議の国のアリス』。要するにドキュメンタリー作家の由宇子は事件の真相という白ウサギを追っていくつのも真実が交錯する不思議の国に迷い込み、そこで出会う人々に様々な難問を突きつけられても抱え込むことなく矢継ぎ早に答えを出していく。その行き着く先が観客が想像していたものからどんどんと遠ざかっていき登場人物の印象も目紛しく変容する様が余りにもスピーディで152分という長尺を全く感じません。

個人的に気になったのは由宇子がずっと着ているコート。ポスタービジュアルでも判る通り『踊る大捜査線』のいわゆる“青島コート“そっくり。これって本作では事件が現場だけでなく会議室でも起こることを暗に匂わせているのかもと勘ぐりました。

ほぼずっと出ずっぱりの由宇子を演じた瀧内公美の存在感がとにかく強烈ですが、丘みつ子、光石研他の演技派ががっちり脇を固めているので、観客の固定観念をこれでもかと揺さぶってくる危うい構成なのに妙に安定感のある作品。そんな中で異彩を放っていたのは塾の生徒の一人萌を演じた河合優実。『佐々木、イン、マイマイン』では不思議な縁から佐々木と心を通わせる苗村、『サマーフィルムにのって』では主人公ハダシの幼馴染で天文部員のメガネっ子ビート板と全く印象の異なる役を演じてきていますが、本作で最も複雑なキャラクターをしなやかにこなしています。

劇伴が全然ないのが特徴的ですが、冒頭で奏でられる曲が醸す強烈な違和感が物語を追っている間も抜けないのですが、エンドロールにそれに対する答えがさりげなく添えられていて、この選曲にも本作のテーマが滲んでいたことにも感銘を受けました。

本作を鑑賞するには予告やチラシ、公式サイトに書いてあること以外は何にも知らない方がいいですが、一点だけアドバイスするとエンドロール直前に鳴る音には注意して下さい。それを聞き逃すと本作に対する印象がガラッと変わりますので。

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よね