劇場公開日 2019年7月27日

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隣の影 : 映画評論・批評

2019年7月23日更新

2019年7月27日よりユーロスペースほかにてロードショー

隣人トラブルがスプラッタ・ホラーに発展。原因はアイスランドの特殊な事情!?

こともあろうに、パソコンに保存してあった元恋人とのセックス動画を再生して興奮していたところを妻に見つかり、家を追い出されてしまったダメ亭主がいる。そして、彼が転がり込んだ郊外の実家では、庭に植わる巨木を巡って年老いた両親が隣人夫婦と些細なバトルを展開していた。日本でも社会問題化している隣人トラブルである。でも、よくよく観察してみると、裏には映画の舞台となるアイスランドの特殊な事情があるようだ。

そもそも、北極圏に近く冬の日照時間はたったの2時間しかないアイスランドだから、貴重な日光浴を邪魔する隣家の巨木は邪魔を通り越して憎悪の対象になりやすい。また、塀を挟んで暮らす2つの家には、近親者を亡くした悲しみを引き摺る老母と、不妊から来るストレスに悩む若妻がいる。破廉恥な亭主を即行で追い出した妻も然り。女性たちが溜め込む怒りのマグマが、やがて男たちを命がけの戦いへと駆り立てる構図も、男女平等ランキング9年連続首位を誇るアイスランド独特。と考えるのは少し穿った見方だろうか?

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それにしても、である。木が影になって日光浴を台無しにされた側がクレームをつけ、それを不満に感じた側が愛猫の失踪を相手の仕業と疑い、やがて、凡人は思いつかない戦慄の対抗策に打って出る泥仕合の、なんと不毛でおぞましいことか!?終盤、文字通り血みどろの攻防へと雪崩れ込む物語の顛末は、単なる隣人トラブルを軽く乗り越えて、ブラックな笑いを伴うスプラッタ・ホラー、もしくは、塀を挟んだプチ戦争の趣だ。

社会保障制度の充実度を筆頭に、あらゆる項目をチェックした結果、幸福度世界一の幸せ大国として世界中から羨ましがられるアイスランドの、国民に優しいようで、実は全然優しくない実態が、このような怪作を作らせてしまう皮肉と痛快さ。でも、自分では解決できない問題や、持って行きようのない怒りを、対話を拒否し、他人にぶつけて解消しようとする愚かな考えは、世界共通。日照時間の長さに関係なく、改めて、肝に命じておきたいと思う今日この頃である。

清藤秀人

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