レ・ミゼラブルのレビュー・感想・評価
全22件中、21~22件目を表示
【フランス・スラム街に住む有色人種の子供達の激しい怒りの理由。現代世界への鋭い警句を発信する映画でもある。】
冒頭、ワールドカップ優勝に沸く人々が集う、凱旋門前。はためくトリコロールの旗。
だが、そこに浮かび上がってくる、映画タイトル・・。
それ以降は、
”ここは本当に世界一等国のフランスか?”と思う映像が続く。
主舞台のボスケ団地に住まう人々は
・“市長”が纏めるアフリカ系移民グループ
・ケバブ屋をリーダーとしたムスリムグループ
・怪しげな麻薬を扱っているらしき人々
・サーカス団を率いるロマたち(昔風に言うと”ジプシー”ね・・。)
と、多岐にわたっているが、微妙なバランスを何とか保っている事が伺える。
彼らを取り締まる、フランス警察クリス(彼らに対する態度たるや・・)、グワダ、そしてシェルブール地区から異動してきたステファン。
上記背景の中で、”ある事件”が起き、彼らのバランスが徐々に破綻していく・・。
自分たちの失態を隠そうとするクリス&グワダ。(けれど、ショックは隠せない。)
事件を引き起こしたがためにゴム弾を顔面に受け、失神するアフリカ系移民イッサ少年。
ステファンのみが、イッサの救急手当てをするが・・。
今作で印象的な場面は多々あるが、
・警官たちとスラム街住人たち(ほぼ成人前の子供達に見える。教育環境の劣悪さも垣間見える。)とのリアリティ感溢れる緊迫した争いの連続シーンには引き込まれるし、
・上手いのは非道な警官として描かれるクリスは家庭に戻れば父親の姿になるし(幼い二人の娘)、グワダには料理を作って待っている年老いた母がいる(彼が母親に涙を流しながら縋り付く場面は、グッとくる)場面を挿入している所。
・更に登場人物が、”ほぼ”有色人種であること。
・そして、フランスだけではなく、世界各国での喫緊の課題がリアルに作中で描かれているところだろう。
<イッサが怒りに燃えた目で、警官たち(ピストルをイッサに向けるステファン、目に怪我を負ったクリス・・)を見据え、火炎瓶を手に持つシーンで映画は黒くフェード・アウトし、
”ヴィクトル・ユゴーの警句:”友よ・・・、悪い草も人間もいない、育てるものが悪いだけだ”
がテロップで流れるラスト。
見事である。
ー ここからは私見であるが、イッサは最後どうしたのか?
”甘い!!”と言われるのを覚悟して、私は且つて自分を助けたステファンの必死の姿を目にし、敢えて火炎瓶を
”厳しい現状を諦観を持って、甘んじて受け入れている自分たちの親世代”に投げた。
と思いたい・・。
出なければ、この映画自体が、本当に”悲惨な人々”を描いたものになってしまうではないか。
厳しい現実が横行する現世界だが、”救い”が欲しいと感じた映画でもある。-
目的は「異宗教の移民排斥」?それとも「格差社会の告発」?
監督の意図はどうであれ、この映画を観た人の大半は「だから移民は受け入れないほうが良いのだ!」と思うのではないでしょうか?
逆に「現代は移民や格差解消に抜本的に取り組まなければならない事態になっている」と思う人は少ないのではないでしょうか?
なので功罪両面を有する作品だと思いました。私自身がこの映画を観ている間にも、自分の中で両者の思いが何度も入れ替わりました。
ラストは「最後を見せない」で終わりましたが、つぎの4パターンが考えられました。
①警官が少年に焼かれる前に少年を射殺する
②少年が警官に火炎瓶を投げて焼死させる
③前の①と②が同時に起きて二人とも死ぬ
④二人とも相手を殺すことを思い留まる。
他のレビューでは「格差社会を告発する共通点が有る」ということで韓国映画『パラサイト』との比較をしている人もいますが、『パラサイト』は良く考えられた「作り物の娯楽映画」であり、本作は「現実社会の悲惨さを描いた映画」なので比較にはならないと思いました。
全22件中、21~22件目を表示