劇場公開日 2019年9月13日

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人間失格 太宰治と3人の女たち : 映画評論・批評

2019年9月3日更新

2019年9月13日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

太宰治が抱えた孤独と生への執着 脂の乗った役者&製作陣が奏でた劇薬

写真家・蜷川実花が4本目の映画監督作として選んだ題材が、文豪・太宰治だ。圧倒的な人気と才能を持ちながら、どこまでも酒と恋に溺れ、その悲劇的な最期は多くの人の知るところとなっている。今作は、大ベストセラー「人間失格」を映画化するものではない。当時、日本中を騒然とさせた文学史上最大のスキャンダルの真相に迫りながら、太宰がいかにして、この不世出の傑作を完成させるに至ったのかを描いたオリジナルの意欲作である。

タイトルの副題にあるように、太宰を取り巻く3人の女たちの存在感は今作に必要不可欠なものとなっている。宮沢りえ沢尻エリカ二階堂ふみ。要は、女優という仮面をかぶった各年代の“化け物”が、蜷川組が放つ甘美な香りに誘われ、女性の持つ恐ろしさを嬉々とした面持ちで体現している。

だが、あくまでも今作の主人公は太宰であり、小栗旬である。映画、ドラマ、舞台、アニメ……、これまでに30人以上の俳優たちが太宰を演じてきたが、小栗は演じていない。自らの36年間の人生を偽ることなく投影し、生きてみせた。

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恐らくではあるが、脚本を読んだ小栗は、太宰の言動で理解できなかった部分は皆無だったのではないだろうか。世代のトップとして喧騒に纏わりつかれながら決して満たされることがなかった、常人では到達しえぬ孤独は、実力とは裏腹に文壇からの評価が決して高くなかった太宰の姿とリンクする。どこまでも生きることに執着した姿とともに、これまでにない新たな太宰の死生観を見る者に提示してくる。

とはいえ、重たい作品には仕上がっていない。蜷川節ともいえる鮮やかなビジュアル表現は健在。だが、これまでの3作品とは異なる位置に“着地”している点に言及しておかねばならない。脚本家・早船歌江子は丁寧な取材で得た史実を盛り込むことで理論武装しながら、3年かけてエンタテインメント性を損なわぬ脚本を完成させた。「万引き家族」で一躍名をはせた近藤龍人のカメラワークは更に冴え渡り、ENZOが創り上げた美術は太宰の世界観に驚くほど寄り添っている。企画・プロデュースの池田史嗣を含め製作サイドの主な顔ぶれは、みな40代の働き盛り。開発期間を考えると毎年では酷かもしれないが、このような劇薬ともいえる企画が定期的に映画ファンの元に届くことを願わずにはいられない。

大塚史貴

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