劇場公開日 2019年5月10日

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オーヴァーロード : 映画評論・批評

2019年4月23日更新

2019年5月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

戦争映画から怪物ホラーへと発展する、J・J・エイブラムスのたくらみ

タイトルの「オーヴァーロード」とは、連合国軍によるドイツ占領国への侵攻作戦名。本作は1944年6月のノルマンディー上陸前夜、空挺部隊がドイツ占領下の村でナチスのアンデッド(不死身の兵士)開発計画に遭遇してしまうという、なんとも捻りの効いた怪物ホラーだ。開巻から戦争映画……と見せかけておいてジャンルをまたぐ展開は、いかにもプロデューサーのJ・J・エイブラムスらしいトリッキーな仕掛け。映画はこのように第二次世界大戦的なドラマをカモフラージュとし、観る者をゆっくりと異常極まる恐怖世界に誘引していく。

第三帝国のオカルティズムや超自然科学への傾倒は、映画において格好のネタにされてきた。有名どころでは「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」(81)を筆頭とするインディ・ジョーンズのシリーズがそうだし、また「アイアン・スカイ」(13)など、近年においても怪作・奇作が発表されている。もっとも後者は大げさな戯画化でもってシニカルにナチスを追及しているが、この「オーヴァーロード」では前者寄りの、千年王国を成すためならば手段を選ばぬ悪役として、その存在が持ち出されている。

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このようなナチス奇想映画の伝統をベースに、戦場のカオスへと小隊が踏み入っていく語り口は「地獄の黙示録」(79)、「プライベート・ライアン」(98)といった名作からテイストを拝借。映画好きに向けてシグナルを送るような遊び心が徹底されている。またこうした拝借は戦争ジャンルにとどまらず、たとえば作曲に「遊星からの物体X」(82)と思わす旋律があったりと、SFジャンルからの引用も大胆に実行。この映画が徐々に怪物ホラーとしての正体をむき出しにしていくさまを、音楽で暗示したりもしている。「物体X」といえば、同作で主人公を演じたカート・ラッセルの息子ワイアット・ラッセルが、この「オーヴァーロード」で親父ゆずりのダークヒーローぶりを見せる。シグナル発信はとことんまで意識的に、かつ念入りだ。

しかし怪物ホラーから、さらにミッション遂行のアクションものへと加速度的に転身していくところ、この映画は定まったジャンルに落ち着くことをひたすら拒絶する。月刊誌「ムー」のトップ記事でも読んでいるかのようなネタも、当代きってのメガプロデューサーの手にかかれば、それ以上に規格を逸した面白いものになる。

尾﨑一男

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