劇場公開日 2018年9月7日

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「人が物語を欲する理由」500ページの夢の束 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人が物語を欲する理由

2018年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

「サピエンス全史」で著者のユヴァル・ノア・ハラリは、人類は「現実には存在しないものについて語り、信じられる」ようになったから進化したと語っている。国や宗教、経済システムなど全ては虚構であり、その虚構を皆が信じるから価値が本当に生まれる。これを認知革命と彼は呼ぶ。

人はフィクションを信じる力によって発展したのだ、とハラリは言っているわけだが、本作も、スケールは小さいが同じことを言っている。主人公のウェンディは「スター・トレック」マニアで脚本コンテストのためにベイエリアからLAまでの旅に出る。自閉症の彼女にとって一人での旅が不安がたくさんあったが、スター・トレックとその物語を自分が書くという物語を信じることで勇気を持って進み続ける。物語という虚構が彼女に力を与えているのだ。

そしてそんな彼女を助ける者も彼女と同じスター・トレックファンだったりする。ケースワーカーとその息子だったり、クリンゴン語を話せる警官だったり。人はなぜ物語を欲するのかについて鮮やかに描いた素晴らしい作品だ。

杉本穂高