劇場公開日 2023年8月25日

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「裕福でも心が貧しいグレートハンガー」バーニング 劇場版 とえさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5裕福でも心が貧しいグレートハンガー

2019年2月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

面白かったなぁ

この先どうなるの??と思いながら
ずーっとドキドキしてた

小説家志望のイ・ジョンス(ユ・アイン)は、幼なじみのヘミとソウルで再会する

その後、ジョンスはヘミから「アフリカ旅行に行っている間、猫の世話をして欲しい」と言われる

ヘミのことが好きなジョンスは、言われた通りに世話をするが、ヘミはアフリカで知り合ったというベン(スティーブン・ユアン)と共に帰国する

その後しばらくして、ヘミはベンと共にジョンスの実家へやってくる

その時、ベンはジョンスに「ビニールハウスを燃やすのが好きだ」という話をする

そして、その日以来、ヘミは失踪してしまう

この世の中には、貧しい人と、そうでない人がいる

多くの人が、毎日、生活していくために汗水流して必死になって働いている

しかし、中には「特にこれといった仕事をしなくても裕福に生活していける人」がいる

この映画のジョンスは、田舎町の農家で細々と暮らしている低所得層の人間だ
しかし、彼には「小説家になりたい」という夢がある

一方、ヘミに紹介されたベンは、働かなくても暮らしていける富裕層の人間だ

その時、ジョンスはヘミに夢中だったため、ベンに対して嫉妬するようになる

ここから、ジョンスの人間臭さが炸裂する

ジョンスは、小説家を目指しているだけに想像力がたくましい

ベンが金持ちだというだけで胡散臭い奴だと思い、あらぬ方向へ妄想が広がっていく

でも、そんなジョンスの気持ちがよくわかるのだ

どんな金で生活しているかもわからないベンは、それだけで怪しい奴だと思ってしまうし、どうも貧乏人を見下しているように見えてしまう

だからこそ、ヘミもベンの悪事に巻き込まれたに違いないと思ってしまうのだ

しかし、それはジョンスのベンに対するただの嫉妬ではないのか

それまで、お父さんのことを嫌っていたジョンスだったが
結局、お父さんの子供だったのではないのか

この世には、韓国と北朝鮮の間にあるどうしても越えられない残酷な境界のようなものが、
韓国の富裕層と貧困層の間にもあると思った

ベンが遠くに見える北朝鮮を見て「面白れー」と言って鼻で笑っているように
貧しい人たちのことも、上から目線で笑っているように見えてしまうのだ

どんなにジョンスがベンの後を追いかけても、ジョンスにはベンの生活が理解できないし、そこから何かを解決することはできない

人々の間に明確に存在する貧富の差、そこから生まれる嫉妬、どんなにもがいても越えられない壁がそこにはあるのだ

そして、善人だったジョンスの中で妄想が膨らみ、ベンに対する憎悪が育っていく

しかし、そんなベンは、裕福な暮らしをしているとはいえ、とくに目的もなく日々を過ごしている

その生き様は人間として豊かかと言えばそうではなく、
貧しい人生を送る「グレートハンガー」なのだ

失踪したヘミのことを全く気にしてもいないベンよりも、心を痛め、気にせずにはいられないジョンスの方がよっぽど心が豊かなのだ

しかし、そのことに気づかず、見た目の裕福さに気を取られてしまうのがジョンスの「若さ」なのだ

この映画は
現代社会の闇と人間の心の闇が融合し、それを主人公の心ごと炎上させるというとてもお見事な作品だった

見る人が育った環境によって、様々な解釈ができる作品
興味があったら、ぜひ、観て欲しいと思う

とえ