劇場公開日 2018年6月23日

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女と男の観覧車 : 映画評論・批評

2018年6月19日更新

2018年6月23日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにてロードショー

ケイト・ウィンスレットの翳りある美しさ。致死量の劇薬が盛られた逸品

八十歳を超えてなお、ほぼ毎年一本のペースで新作を撮り続けているウディ・アレンは、まさに驚異というほかない。軽妙洒脱な風俗喜劇が目立つが、時おり「マッチポイント」(05)、「ブルージャスミン」(13)のような強烈な毒を含有する傑作を放つので目が離せない。「女と男の観覧車」もやはり致死量の劇薬が盛られた逸品で、見終えてしばし茫然となった。

舞台は1950年代、幼少期のウディ・アレンの魂の故郷ともいうべきコニー・アイランド。このリゾート地を舞台にしたメロドラマの名作「悲しみは空の彼方に」(59)を彷彿させるのは、天才ヴィットリオ・ストラーロのキャメラが50年代ハリウッド映画の色彩感覚をデリケートなまでに完璧に再現しているからだ。くすんだ色調と儚さは、ヒロインのウェイトレス、ジニー(ケイト・ウィンスレット)の心象そのものでもある。同じ遊園地に勤める夫(ジム・ベルーシ)、放火癖のある問題児の息子と暮らすジニーは裏で大学生のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と不倫している。そこへギャングと駆け落ちした夫の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が突然、帰還したことから、一見、平穏な日常の歯車が狂い始める。

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当初、知的に見えた語り手のミッキーがまったく頼りがいのない俗物であることが暴露され、むしろ彼を触媒にして、女優だった過去の夢を引きずるジニーの魅力がより一層際立ち、キャロライナが意外な向上心と知性の持ち主であることが明かされるアイロニーに満ちた語り口は、ウディ・アレンの真骨頂である。

とりわけ中年にさしかかったケイト・ウィンスレットの翳りある美しさは特筆すべきだろう。取り返しのつかない過失を問われ、濃いメイクで隈どられた鋭い眼差しで、ミッキーに大見えを切る痛々しいシーンは、「サンセット大通り」(50)のグロリア・スワンソンを想起させるほどの鬼気迫る名演だ。脂ぎったテネシー・ウィリアムズとメランコリックなチェーホフ劇を絶妙にブレンドしたような苦い味わい。今のアメリカ映画で、こんな複雑精妙な作品を撮れるのは、ウディ・アレンだけである。

高崎俊夫

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