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◆男と女、モントーク岬で

老境を迎えた巨匠が描く恋愛は驚くほどみずみずしく、老練で深い洞察が垣間見える
  かつてニュー・ジャーマン・シネマの旗手として称賛を浴びたフォルカー・シュレンドルフは「ブリキの太鼓」(79)に代表されるように社会派ヒューマンドラマの巨匠という印象が強い。それゆえに七十八歳という老境を迎えた彼が、中年男女のめくるめく恋愛をモチーフにした新作を撮りあげたことには、当初、驚きを禁じ得なかった。しかし原案がマックス・フリッシュの「モントーク」と知り、得心が行った。多彩なシュレンドルフ作品の中でもマックス・フリッシュ原作の「ボイジャー」(91)だけは、例外的に荘重なシェイクスピアの悲劇を思わせる狂おしい愛の世界を紡いでいたからである。

  映画はベルリンからニューヨークに新作のプロモーションでやってきた作家のマックス(ステラン・スカルスガルド)が書店で自作を朗読しているシーンから始まる。「取り返しのつかないことをして後悔すること。やるべきことをやらずに後悔すること。この二つの後悔が人生の物語を形作るのか」。聴衆は魅了され、朗々と語るマックスはどこかナルシスティックな笑みを浮かべ、得意げな表情を隠さない。妻のクララ(スザンネ・ウォルフ)はニューヨークの出版社に勤め、夫のマネージメントに余念がない。実は、マックスは、この新作のモデルで、17年前に別れた、今はニューヨークで弁護士として成功しているレベッカ(ニーナ・ホス)を忘れられずにいた。ふとしたきっかけで再会を果たした二人は思い出の地ロングアイランドのモントーク岬へと車を走らせる。

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  安易な回想シーンを一切使わず、ニューヨークの五日間を定点観測のごとく点描していく簡潔な語り口が魅力的だ。二人がややくたびれかけた肉体を晒しながら17年の歳月の空白を埋めるようにベッドで愛し合うシーンには、切実な性愛の残り香のような淡いエロティシズムが漂い、忘れがたい。

  翌日、マックスは妻と別れて、再婚したいとレベッカに申し出る。しかし、レベッカは17年間になにがあったかを語り、自分を小説の題材としてしか扱わないマックスのエゴイズムとなりゆき任せの生き方を静かに糾弾するのだ。

  シュレンドルフの演出があまりにみずみずしいのに驚かされる。しかし、ありえたかもしれない<生>の選択の可能性を夢想しながらも、<悔恨>からは決して逃れられないという苦い諦念をにじませたエンディングには、シュレンドルフの老練で深い洞察が垣間見えるのである。

(高崎俊夫)


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