劇場公開日 2018年6月8日

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「あれだけ騒がれてこれなら他も推して知るべし、無駄な時間と金を映画に費やすのは今後やめよう。」万引き家族 山茶花Qさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0あれだけ騒がれてこれなら他も推して知るべし、無駄な時間と金を映画に費やすのは今後やめよう。

2019年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

楽しい

単純

血縁と戸籍だけが家族のつながりではない。実に全くその通り、異存ない。ではあるがそれだけで感動とか重みとか言われると今さらどうしたと言いたくなる。昔から大衆芝居・浪花節・小説で、手を替え品を替えなぞられてきたことだ。
犯罪者仲間内の絆を描いた物というのも古今東西の物語り映画に数えきれない。手を替え品を替えの中に現代の万引きが加わったにすぎず、これはこれで面白いと言うものの、もしその点に感動を求めよとかいうなら実在の愛情深い里子里親あるいは各種支援施設の一日を追うほうがもっと質も価値も高い映画ができるだろう。啓発的な内容の重みという点から言うとそうなる。

ただ殊更なことを言わず単純に大衆娯楽映画として楽しむならそこそこには面白い。すぐ身近に接している筈でありながら目に触れることの稀な万引きを、犯行当事者世界から描いているのが面白いと言えば言える。また日本の貧困事情を時宜的に捉えている点でも共感を呼ぶでしょう。
あくまで商業目的の産物だから単なる娯楽映画であって悪いことは何一つない。だからあまりに勿体つけた宣伝をしなければいいのだが、どれほどのものかとつい見てしまった結果としてむしろ悪感情が働くぞ。

気になるのは演技の質で、特に悪くはないがいいとも言えない。一番の不満はこれ。
演技者本人以外にカメラワークや振り付けなどにも原因がありそうな気がするが、総じてわざとらしい。主役のリリー・フランキーが特にそうだが、さり気なさを演じすぎて却って不自然さが浮き立つ。さりげなさに人情味を滲ませようというのだろうが、まあそのあたりの塩加減の難しさが訳者の感性を超えるのだろう。早い話がヘタクソ。
中でプロらしい才能と力量をうかがわせる演技ができていると思ったのは唯一風俗勤めの娘くらい。あとはちょっとましな感性と練習があれば素人でも、例えば私でも、なんとかなりそうなレベルで特に褒めるほどのものはない。
多くのレビューで樹木希林がやたらと高く評価されているが、彼女の場合は風貌自体が演技に勝るはまり役であるにすぎないだろう。加えて、失礼ながら「映画女優」に対する一般認識からはほど遠い外貌に対する一種の判官びいきが赴くところの凡俗受けに過ぎない。だから彼女に関して言うならば、セリフも演技もむしろ極端に削ればもっと味が出ていただろうし、いっそ終始無言の置物くらいに位置付ければなおいいかもしれない。私が監督ならそうするか。あるいは全編通じてしゃべるのはたったひと言、とかいうのも話題を呼びそう。
子供の演技は基準が全く異なるので評価対象外。

万引き場面にリアリティーの無さを指摘する感想もうかがえるが、これは映画用演技として見過ごすしかないと思う。もっとも、いかにもの映画演技をさせてしまうところが監督の才能の程度とか限界とかいうことにはなるだろうが、まあ俗受け観点からはこんなものなのかもしれない。中途半端な社会的配慮もあるだろう。

山茶花Q