劇場公開日 2018年3月1日

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15時17分、パリ行き : 映画評論・批評

2018年2月20日更新

2018年3月1日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

テロ映画というより青春ロードムービー。普通の若者たちが辿る運命の魔訶不思議

巨匠中の巨匠クリント・イーストウッドが2015年に発生したテロ事件の実話を映画化――。一文字も間違ってないが、「イーストウッド×テロ」みたいな気持ちで観ると劇場で戸惑うかも知れませんと忠告させてください。かくいう筆者も最初は大いに戸惑ってしまったからだ。

事件はアムステルダムからパリに向かう高速列車の車中で起きた。一人の武装テロリストを、たまたま乗り合わせたアメリカ人青年3人(うち2人は軍人だった)が取り押さえたのだ。イーストウッドは当事者の3人を主演にキャスティング。さらに事件で負傷した人やその妻など実際の関係者を極力呼び集めた。もはやイーストウッド御大による“映画史上最も豪華な再現ビデオ”である。

ただし本作はポリティカルでもなければスリラーでもない。イーストウッドが掘り下げているのは、主人公3人が決して非凡な人生を過ごしてきたわけはなく、ボンクラ感の強い普通の若者だったという生い立ちなのである。

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彼らは小学校の同級生で、サバゲ―オタクのいじめられっ子だった。それで性根が捻じれてしまっていたら銃乱射事件を起こす予備軍のように色眼鏡で見られていたかも知れない。ところが物語の中心となるスペンサー青年は、何か人の役に立ちたいと空軍の人命救助部隊に志願するのだ。

ところが入隊したからといってヒーローになれるわけじゃない。スペンサーは挫折を繰り返しながらも地道な努力を重ね、ある夏休みに「みんなでヨーロッパ旅行しようぜ!」と親友たちを誘う。本作のメインは、テロ事件よりも彼らの“旅行”そのものなのである。

自撮り棒でSNS映えする写真を狙い、遊覧ボートで知り合った女子とご飯を食べ、アムスのクラブで踊りまくるボンクラ3人組。しかも演じているのは本人たち。観客が「なんでこいつらがはしゃぐ姿を観ているのか?」と首を傾げるのも当然だろう。

しかしわれわれは現実に目にしているものを信じるべきなのだ。イーストウッドが延々と彼らが遊び惚けている姿を映すのは、それこそが監督が思う最良の手段だから。未曽有の大惨事になっていたかも知れないテロ事件を阻止したのは、たまたまいつか人の役に立ちたいと願っていたごく普通の若者たちだった。神の采配か、できすぎた偶然なのかはわからない。

よって本作は、テロ映画というより青春ロードムービーになっている。夏休みの休暇旅行が、彼らの人生の、そして世界中にとってのハイライトになった。そんな運命の魔訶不思議を、この人のいい3人組と一緒に体感するためにこの映画は存在しているのだと思う。

村山章

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