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◆志乃ちゃんは自分の名前が言えない

コミュニケーションに苦労する/した全ての心に響く珠玉の人間賛歌
  観た人の数だけ世の中の風通しが少しずつよくなり、生きやすくなると感じさせる快作だ。一応は青春音楽映画のカテゴリーに入るが、このジャンルのありきたりな作品にはない特別な要素がある。

  高校1年生の志乃は、タイトルが示唆するように、他人と話すことが苦手。いつも話せないわけではないが、入学式の日、言葉がつかえてうまく自己紹介ができず、クラスの笑い者になってしまう。この難しい主役をオーディションで勝ち取ったのは、「幼な子われらに生まれ」に続き映画出演2作目となる南沙良。苦しそうに声を詰まらせるときに震わせる体、感情を爆発させて涙と鼻水でグシャグシャになる顔。まさに渾身の演技が、観る者の心を強く揺さぶる。

  もう一人の主人公は同級生の加代。ミュージシャンになるのが夢でギターを弾いているが、歌うと音程を外してしまう。クラスで孤立していた志乃と加代は、あることがきっかけで友達になる。不器用なコミュニケーションでお互いを知り、相手を傷つけて自己嫌悪に陥ったりしながらも、次第に気持ちを通わせていく。加代に扮するのは、「万引き家族」を含む是枝裕和監督の直近3作品や瀬々敬久監督の「友罪」など話題作への出演が続く蒔田彩珠。孤独な心を隠すかのように不愛想で醒めた目をしていた序盤から、志乃と過ごす時間の中で柔和な笑顔を見せるようになる変化を繊細に演じた。

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  原作は押見修造の同名漫画。志乃の発話に関する設定は、押見自身の体験に基づく。特定の障害を持ったキャラクターの話にするのではなく、成長の過程でたいていの人が経験する意思疎通の難しさや、"心と心が通う"喜びを伝える普遍的な物語に昇華させた。この点に関して、「百円の恋」の足立紳による脚本と、長編商業映画デビューを果たす湯浅弘章監督の演出も、原作者の意図を尊重したものになっている。

  志乃が歌い加代がギターを弾く劇中歌の数々がフレッシュで切なく、押見が原作中で書いた詞に音楽担当のまつきあゆむがメロディーをつけた「魔法」の素朴な魅力も味わい深い。物語の舞台も、原作の山間の町から海沿いの町に変更されたことで、画面の爽やかさと開放感が増した。

  身体的な特徴であれ、精神的な傾向であれ、他人と違う自分にどう向き合っていくか。あるいは自分と違う個性を持つ他者とどう接するのか。扱いが難しいテーマにスタッフ・キャスト全員が誠実に取り組み、魂を込めて完成させたことが伝わってくる素敵な作品であり、すべての世代にさまざまなヒントや気づきをもたらす映画が世に出ることを感謝の思いを込めて祝福したい。

(高森郁哉)


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