劇場公開日 2018年5月4日

  • 予告編を見る

「嫌われトーニャの半生」アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0嫌われトーニャの半生

2018年12月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

興奮

日本でも人気のフィギュアスケート。
選手たちは国民的スター。
本作で描かれる女子選手も、色んな意味で“スター”。
…いや、正しくは、“ヒール”と言うべきか。

トーニャ・ハーディング。
本当に毎度毎度、スポーツの事には疎いので、恥ずかしながら名前を聞いたのは初めて。
輝かしい実績、オリンピックにも出場。また、トリプルアクセルを成功させた初のアメリカ人女性選手としても知られている。(ちなみに、女子初は、我が日本の伊藤みどり)
称えられるのに充分なのに、しかし彼女は嫌われ者。選手としてより、ある事件の方で有名。
元夫とその仲間がライバル選手を襲撃。彼女も関与を疑われ、フィギュアスケート界から永久追放…。“ナンシー・ケリガン襲撃事件”。
一体、彼女に何があったのか…?

訳ありの人生には、生まれや境遇が深く影響する。
彼女の場合、ズバリ、母親!
とにかくこの母親が、モンスター!
常に煙草を吹かし、口から出るのは暴言のみ。
娘に対しても、容赦なく暴言・罵声を浴びせる。
それがこの母親の教育法なのかもしれないが、にしても異常過ぎ…。
娘には“口擊”のみならず、暴力も振るい、ある時はナイフを投げつける…!
自分の腹を痛めて産んだ娘に愛情全く無いのかよ…?
一応娘にスケートをやらせ、時には罵詈雑言のコーチをし、終盤のあるシーンで遂に娘に優しさ見せたと思ったら…!
とことん毒親。ここまで来ると、逆に天晴れ!
父親は居たが、当然離婚。幼い頃から怪物母と暮らしてきたトーニャは…

性悪とまでは言わないが、かなり勝ち気、強気な性格に。
フィギュアスケートに懸ける情熱は並々ならぬものだが、時には得点に納得出来ず、審査員に詰め寄り、暴言すら吐く。
あの母親に、この娘あり。そりゃそうなるわな…。
才能は誰もが認めているが、審査員たちからは嫌われ、フィギュア界きっての問題児。

そんなトーニャもうら若い女子。恋だってする。
ジェフという男性と出会う。激しく惹かれ合い、勢いそのまま結婚。
ところがこのジェフ、DV夫だった…!
彼の場合母親と違って、愛情暴走し過ぎてかもしれないが、「お前を愛してる」と言った舌も乾かぬ内に、暴力。
なかなかのキチ○イ野郎。
夫婦喧嘩はもはや何かのバトルと言っていいくらい。
もうウンザリして、別れ、接近禁止令まで通告したのに、未練タラタラ、ストーカーみたいに付きまとう。
夫の異常な愛情は銃を発砲するまで…!
そんな夫なのに、トーニャも復縁したりする。
腐れ縁と言うか、どうしてもダメ男に惹かれるのか。

毒親とDV夫に挟まれて、トーニャもよく輝かしい成績を残せたと思う。
こればかりは彼女の努力、実力だ。
しかし、頂点を極めると、変わる人も居る。
私は特別。世界一。
不調にも陥る。
一時は生活の為にウェイトレスの仕事をするが、再び晴れの舞台へのチャンスが…!
そんな時、事件が起こる…。

トーニャ・ハーディングの事を知らなければこの事件の事も知らなかった者の、あくまで本作を見ただけでの印象で言うと…
トーニャも被害者ではなかろうか。
事件を起こしたのは、夫とその仲間。夫が、トーニャに脅迫状が送られてきた事を知り、それをライバル選手にもしてやろうと。単なる脅しだったが、しかし仲間が暴挙に出てしまった。
トーニャは“何も知らなかった”が、あっという間に捜査と疑いの対象に。
真偽については…、何とも言えない。
ただ一つ言えるのは、
毒親に育てられ、彼女にも定着してしまった世間のビ○チのイメージ。それ故、あの女ならやりかねない…。
きっぱり縁を切れば良かったのに、DV夫やそのバカ友との付き合い。
生まれや境遇は不幸で気の毒だが、自分自身の行いや振る舞いが少なからずそれを引き寄せたのかも…。

作品はシリアスな実録風ではなく、登場人物たちへのインタビューのフェイク・ドキュメンタリー×ブラック・コメディ・タッチ、登場人物たちがカメラ目線で喋ったり、各々例の事件について証言が食い違う“羅生門”スタイルであったりと、ユニークな作り。
テンポも非常にいい。
スケート・シーンのカメラワークや編集も臨場感あり。

プロデュースも務め、猛特訓の末実際に自分でスケートも披露した、マーゴット・ロビー入魂の熱演!
小生意気でもあり、魅力でもあり、破天荒で目を引く存在…まさしく、氷上のハーレイ・クイン!
彼女の外観のイメージだけではなく、複雑な内面も体現。
終盤の裁判の涙ながらの訴えにはグッとさせる。
本作でオスカーを受賞した母親役アリソン・ジャニーの怪演は必見!
序盤は彼女が主役じゃないかと思わせるくらい。
エンディングには本人のインタビュー映像。メイクを施したそっくりぶりに驚き!

栄光からの転落人生。
それでも彼女はしぶとく別のスポーツの世界に進出。
もう失うものは何も無い。何だってやる。
ボコボコの顔になっても、ドン底に落とされても。
アタシは、トーニャ。
嫌われ者。
文句ある?

近大