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◆ハッピーエンド

映画を観たという行為が、観客に真のハッピーエンドをもたらすことを願う
  「ハッピーエンド」、こんな身も蓋もない題名を付けられるのは、映画界広しといえどミヒャエル・ハネケぐらいではないだろうか。世界でもっともハッピーエンドを嫌う監督の新作は、もちろん一般的な意味での幸福なエンディングなど用意されていない。それどころか、観客を呆然とした境地に陥れたまま、映画はまるで何事もなかったかのように静寂の海と地平線を映し出して終わる。この「非情さ」がハネケ映画の特徴のひとつだろう。

  英国海峡に面したフランス北部の港町、カレーに住むブルジョワ家族。高齢の父に代わって家業を継ぐ娘のアンヌとそのパートナー、気が弱く仕事のできないアンヌの息子と、家業を継がずに医者になった弟トマと二度目の妻。そこに、トマが前妻ともうけた少女を引き取ることから、物語が始まる。映画はおもに思春期の彼女の視点から、というよりその携帯を媒介に語られる。怒濤の勢いで打ち込まれるメッセージ、おびえるペットを冷酷に写し取る携帯画面。何のために? 誰に宛てて?

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  本作の核となるのが、現代のSNS社会におけるディスコミニュニケーションだ。誰もが表と裏の顔を持ち、秘密を抱える。そこに本当の対話による理解や癒しはない。富裕な彼らは変わりゆく社会や人の痛みに無関心で、彼らが雇う移民たちの問題には蓋をしようとする。年輪を積んだ祖父だけは、孤独に歪んだ孫娘の心情を鋭く見抜いているが、そろそろ人生に幕を引きたいと思っている彼が彼女に手を差し伸べることはない。

  エゴイスト、と同時に、感情を欠いたような彼らの姿にショックを受けたり、あるいはその肩を揺さぶりたくなったりする観客もいるかもしれない。だが冷静に見るならば、彼らとて我々の延長にある同じ人間に過ぎないということに気づくはずだ。

  ハネケはどこまでも観客にさまざまな問いを突きつけて来る。一見それは尊大で不快な印象を与えるかもしれないが、決して高みからの「お前たちはどうなのだ」という糾弾ではなく、その対象には作り手である彼自身も含まれていることを忘れてはならない。裏を返せばそれは、彼が観客をリスペクトし、その知性や許容力を信頼しているからこそなのだ。この映画を観たという行為が何かしらハッピーエンドをもたらすことを、監督は希求しているのかもしれない。

(佐藤久理子)


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