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◆さよなら、僕のマンハッタン

久々に踏みしめた大都会の片隅で、名匠ウェブが吐露する純粋な想い
  この映画はシンプルではあるものの、クライマックスのある一点において、ああそういうことだったのか、と唸らせられる何かがある。そこを抜けると冒頭のシーン、それこそジェフ・ブリッジスがいぶし銀の声で語りかけるナレーションさえもが、全く違うトーンになって照り返してくるかのよう。鑑賞するごとに異なった味わいが楽しめる作りの妙。さすが "ブラックリスト(映画化が実現していない優秀脚本リスト)"に選ばれただけのことはある。

  マーク・ウェブ監督がこの脚本と初めて出会ったのは「(500日のサマー)」の前だというから、ざっと10年以上は寝かせた計算となる。サイモン&ガーファンクルの名曲タイトル"The Only Living Boy in New York"を原題に据えた本作は、そのBoyともいうべきひとりの青年が主人公だ。

  彼は過去のウェブ作品の主人公たちと同様、人生の岐路に立ち、どうやって未来を切り開くべきなのか迷っている。心を寄せる女性との関係で気を揉み、そして父親の不倫疑惑で家庭もギクシャク。そこに、隣に越してきた初老の男性が加わって、事態は一人一人のキャラクターが織り成す数式のように込み入っていくのだが……。

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  初監督作「(500日のサマー)」でブレイクし、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズで失意を経験し、「gifted ギフテッド」で深呼吸して、続く本作で再びスパイダーマンの本拠地であるニューヨークへと舞い戻ったウェブ。痛みを乗り越えると人は大きくなると言うが、本作はまさにその好例だ。以前に比べて温もりや深みが増し、未来に怯える若者や過去に囚われた大人たちへの慈愛も際立った。彼は"語り部"として明らかな成長を遂げたように思える。

  そういえば、主人公の名はトーマス・ウェブという。かのサイモン&ガーファンクルの曲の歌詞も「トム」という人物へ向けた"語りかけ"の内容となっているが、その上、彼の名に監督名さえ重なっているのは、きっと偶然ではない。この場所で己をもう一度奮い立たせたいという、監督自身の祈るような想いの表れなのだろう。

  そのことへの気付きと、先述したクライマックスの余韻とが相まって、まるでウィスキーのグラスを飲み干したかのような芳醇な香りが胸一杯に広がった。吹けば飛ぶような小さな映画かもしれないが、それでも観る人によっては忘れがたい感動の火を心に灯してくれるはずである。

(牛津厚信)


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