劇場公開日 2019年2月8日

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ファースト・マン : 映画評論・批評

2019年2月5日更新

2019年2月8日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

月面踏査の偉業と共に迫る、宇宙飛行士のリリシズム

1969年、アポロ11号で人類初の月面踏査をなしたアストロノーツのひとり、ニール・アームストロングの偉業に迫る伝記ドラマ。NASAの有人宇宙飛行計画を描いた古典「ライトスタッフ」(83)のように群像劇として歴史的プロジェクトを俯瞰するものではなく、宇宙飛行士個人の自己体験とリリシズム(叙情)にカメラを寄せ、それを観客に共有させる没入型の作品になっているのが大きな特徴だ。

ソ連との宇宙競争に勝利すべく、高度なプログラムへのチャレンジを要求されていくアームストロング。映画はあたかも観客がX-15航空機やジェミニ8号、そしてアポロに搭乗するようなシミュレーション感覚に満ちており、それがもたらす堪え難いようなコクピット内の閉塞は、観る側の心拍数をいやがうえにも上昇させる。そこには悠然と景色を眼下にするような爽快さはなく、16mmフィルム撮影の粗々しいルックも手伝い、むしろ自らの内的意識との戦いを強調するかのようだ。またこうした描写をグリーンバック合成を用いず、LEDディスプレイに背景を映してコクピットのセットと同期させて撮ったという生々しい効果演出も、本作特有のライド感をより強固なものにしている。

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なによりこの映画は、アームストロングの個人史に物語の推進を依存する。幼い娘を病気で失い、また同僚の尊い犠牲など、彼は英雄としての背後に喪失と悲しみを背負いながら国家的ミッションへと臨む。そんなメンタリティに迫ることで、チャゼル監督は史実として認識されている壮大な出来事を、等身大の体験として文脈づけ、そして観る者に実感させていくのだ。

このようなアームストロング自身の小宇宙と、広大な宇宙とがシンクロを果たすクライマックスの高揚感は、IMAXフィルムカメラで撮影した高精細、かつワイドに視界を覆うビジュアルがもたらしてくれる。意識的にジャイアントスクリーンのフォーマットを駆使したそれは、やはりIMAXの対応劇場で観てこそ本意を遂げるのだ。鑑賞環境に制限を設けたくはないが、「配信で見るわ」とのんびり構える御仁に対し、オレが差額分を払ってでもシネコンに誘導したくなる。「人類にとっての偉大な飛躍」は、まずIMAXへの第一歩から始めるべきだ。

尾﨑一男

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