劇場公開日 2018年6月22日

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「生きてこそか、破滅の美学か…」天命の城 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生きてこそか、破滅の美学か…

2018年7月19日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

朝鮮の歴史については全く知識がないのだが、
17世紀初頭の史実をベースにした、民族興亡の危機に直面した男たちの悲壮かつ壮絶な物語。
「神弓-KAMIYUMI-」と同じ時代背景だ。

まず、オープンセットとロケーションによる壮大な撮影が素晴らしい。
俯瞰や遠景が使われていて、ごまかしようがない本物を見せてくれる。

合戦の場面が何度か形を変えて描かれ、飽きさせない。
ダイナミックな迫力、スピード感、リアリティーがある。
韓国映画はこういうアクションの描きかたのメソッドが確立されているのだろう、完成度が高く、安心して観られる。

台詞は字幕で追うには難しい上に、議論の場面が多く、自分にはいささか辛かったが、
にもかかわらず、物語はテンポよく展開し、決して解りづらくはなかった。

抗戦派と和平派の大臣は、意見が対立していてもお互いを尊敬し合っている。
一部に邪魔者を失墜させようと意見する、状況認識の弱い重臣はいるが、
二人の主人公はあくまでそれぞれの信念を貫こうとしている。
この二人の大臣が実在の人物なのかは知らないが、この局面なら、当然二つの意見が議論されただろうことは想像できる。

イ・ビョンホン演じる夷曹(イジョ)大臣は、民族存続のために恥辱に耐えて生きる道を説く。
敵に肩入れしていると非難されようとも、自分の考えが過っていない信念を持っている。
冒頭、敵陣の前に一人対峙して、雨のような矢の攻撃にも微動だにしない姿で人物が紹介される。
静の男だが、鉄の意志をもつ強い男であり、苦悩はあっても、辛さはそれほど感じられない。

一方、キム・ユンソク演じる礼曹(イェージョ)大臣は、誇りをもって戦うことを説く。
恥をさらすよりも散るべきと考えているのか、作中で打つ策のとおり勝機があると本気で考えているのか定かではないが、民を従える王朝としては愚かな考えだと観客は知っている。
こちらは、冒頭の人物紹介シークェンスでは、道案内の老漁師が敵にも道を教えないように斬り殺すところが描かれる。
ここでは躊躇する様子は見られないが、その前に孫娘と共に面倒を見るから城に来るよう熱心に誘っている。
やがて、帰らぬ祖父を追って幼い孫娘が城にやって来て、事実を伝えられぬままに保護することになるという、運命。
城壁を警護させている庶民兵とのふれあいがあり、加治屋の師弟と心を通わせる。
キム・ユンソクの逡巡が、物語に深みをもたらしている。
起死回生の作戦を加治屋に賭けるが、予想だにしない近衛兵の裏切り。
どうあっても、命運が翻ることはない無情。
漁師の孫娘を加治屋に託し、人知れず自決する。
少女との別れのシーンには、感銘を受ける。

イ・ビョンホンの方が共感しやすいからこそ、映画はキム・ユンソクの人物描写の方に力が注がれていたような気がする。

王仁祖が清の皇帝にひれ伏す姿に涙するイ・ビョンホンは、
持論の「生きてこそ」を貫くのだろう。
明治を向かえて徳川の末裔を支え続けた勝海舟を彷彿させる。

kazz