劇場公開日 2019年1月25日

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ナチス第三の男 : 映画評論・批評

2019年1月15日更新

2019年1月25日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

「ハイドリヒ暗殺」の歴史的な意味を多層的な視点でとらえ返すユニークな語り口

ヒトラーが“鉄の心臓をもつ男”と命名し、あるいは“金髪の野獣”と呼ばれて、第三帝国の高官でもっとも恐れられたラインハルト・ハイドリヒの襲撃事件はこれまで何度も映画化されている。古くはフリッツ・ラングの傑作「死刑執行人もまた死す」(43)が有名だが、「暁の七人」(75)も戦争アクションものの秀作だった。

ナチス第三の男」が、これまでの類似作と大きく異なるのは、前半ではハイドリヒという冷酷極まりない大立者をクローズアップし、後半では一転、狙撃者であるチェコ人のヤン・クビシュ(ジャック・オコンネル)とスロヴァキア人のヨゼフ・ガブチーク(ジャック・レイナー)という二人の青年に視点を移すというユニークな〈語り口〉を採っていることである。それは、あたかも一本の映画の中に二つの異なる作品が混在しているような印象を与える。この語りの視点の思い切った転換は、ハイドリヒ暗殺という〈決定的瞬間〉の歴史的な意味をできるだけ多層的な視点でとらえ返そうというセドリック・ヒメネス監督の作家的野心にほかならない。

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ジェイソン・クラークは若き日のマーロン・ブランドを思わせる頑健な体躯と独特の鉤鼻が印象的で、無表情かと思えば、突然、烈火のごとく感情を暴発させる。あるいは娼館に盗聴器を仕掛け、スキャンダルをネタに上官たちを恫喝し、卑劣極まりない手段で権力を掌握する、その不穏で怪物的なキャラクター造型が見事である。

いっぽう、後半のヤンとヨゼフのエピソードは、レジスタンス組織の勇敢な娘たちとの束の間の恋が点描され、初々しい青春映画の感触すらある。しかし、それゆえに、親衛隊に包囲され、教会での苛烈な銃撃戦の果てに、地下納骨堂に立て籠ったふたりが、開口部から放水され、万策尽きて、「あっちで会おう」と言葉を交わし合うシーンが悲痛さをきわめるのだ。

ハイドリヒの事件は、史上唯一の成功した、ナチス高官の暗殺計画として称讃されたが、ナチスは凄絶きわまりないホロコーストという報復に出た。おびただしい無辜の民の命が失われたのことと引き換えに、レジスタンスという麗しい神話だけがかろうじて生き延びるのである。

高崎俊夫

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